ロリコン地獄 糞喰らえ

エリー.ファー

一丁目 幼女鼻糞を笑う

 私は町が好きだ。

 この生まれ育った町が好きだ。

 私の友達は何人かいて、皆はそこまでこの町が好きではなかったようだ。

 何せ、山間のこの町は寂れていたし、店はあるものの都会と比べれれば当然と言うべきか、華やかさはない。東京のスタイリッシュな生活に身を置きたいという町民がいるのも当然だ。

 分からない話ではない。

 私以外の友達はある年齢で電車に乗って町を出た。

 私は一人だけ町に残った。好きであったし、またこの町を楽しい場所に変える使命感を持っていたからだ。

 私が見送り、去っていく電車はどことなく急いでいる風にも見えたし、また楽しそうにも見えた。不安であるとか心配であるとか、そのようなものは感じられなかった。希望、という側面を強く押し出していたように思う。

 出ていく友達は申し訳なさそうにしながらも、この町を出るのが楽しみ過ぎて笑いをこらえきれていなかった。

 そういうことなのだ。

 田舎の町など遅かれ早かれ、このようになっていく。

 それから数分後。

 その列車が私のいる町と隣町との間で立ち往生しているらしい、ということを聞いた。

 内容は単純だ。

 乗客が全員頭部を爆散して死亡。

 列車内は肉片と、吹き飛び砕けた骨。飛び散った体液で窓が濡れ、外から中を見ることはできない。

 それから。

 町から出ようとする人たちが。

 爆散。

 溺死。

 土砂崩れによる圧死など。

 そうして必ず死ぬようになった。

 数日のうちに。

 町から人が出なくなり。

 町の人口流出は終わりを迎えた。

 町には幼女が急に増えた。

「あの子って、ここの町の子じゃないわよね。」

「でも、ほらお母さんとかお父さんが帰省とかで、自分の子どもを連れて来たんじゃないかしら。」

「でも、それにしたっておかしくないかしら。」

「いなかったわよね、こんなに小っちゃい女の子。」

「最近、よく見るわよね。」

「学校に行ってる訳でもないから、その、いいのかしら。」

「話しかけてみたのよ、それで。」

「え、誰に。」

「いや、その子たちに。」

「どうだった。」

「よく分かんないのよ。なんていうか、ただの小さい女の子な訳だから、はぐらかされたっていうか、話が前に進まないっていうか。」

 こんな会話をやたらに聞くようになった。

 私は町中に増えた幼女たちを避けながら友達を見送ったあの駅のホームへと入った。田舎の駅であるから乗る場合は支払う必要があるが、入場だけなら駅員さんには見逃してもらえる。

 ホームはあの時と何一つ変わらなかった。

 何もない。

 何の音も。

 しないはずだった。

 町の外からあの日以来の電車が向かってくる。まるで、この駅に電車が来るのが当たり前のように、スムーズに線路の上を滑って入ってきた。元々そんなに速度は出していないので、品よく速度を落として止まってみせる。

 運転席の扉が開くと、黒いスーツ姿の男がいた。

 そして。

 どこか威圧的な雰囲気をしていた。

「この町からお前は出ないのか。」

 質問をされた、というよりもそれは挨拶のような言葉だった。

「町が好きですから。」

「死ぬからじゃないのか。」

「え。」

「町から出たら死ぬから出ないんだろう。町が好きなわけじゃないだろう。」

「そんなことはありません。私は町のことが好きです。」

「俺は、嫌いだ。」

「町が、ですか。」

「いや。」

「地元を愛してる人間が、ですか。」

「いや。」

 男は私の首を掴むと、そのまま強く握って首の肉をちぎり始めた。

「お前みたいな幼女が嫌いだ。」

 息ができない。

 ゆっくりと引きちぎれていく皮膚と、そこから流れ出す血、それらが鎖骨、そして胸を伝って服を濡らすのが分かる。

「こんなことをして、町から人が出ていくのを止めるのは反則だ。そうだろう。よく考えろ、補助金、ふるさと納税、意味不明な芸術作品による町おこし、子育てしやすい町だという謎アピール。あるだろう、方法など。」

「ふっ、ふっ、ふっふっ。ふう。」

「なんだ。」

「ふっ、ふっふっ増える訳、な、ない、じゃん。」

 そうだ。

 そうなのだ。

 私たちは私たちなりに頑張った。

 この町を守るために頑張ったのだ。

 それなのに。

 あんまりだ。

 あんまりじゃないか。

 私の首の肉が千切れて。

 男の腕から自分の体が落ちると、首の所から空気が漏れた。

 寒い。

 体が寒い。

 指先と足先が冷たくなり、体の震えが止まらない。

「町から人が出ていくのを、町が寂しいと感じられるようにしたな。」

 もう、遅い。

「お前も含め、幼女を十三人柱にして、町を生かすのは不可能だ。」

「もう、相成った。」

「幼女十三人、皆殺し。」

 男のかかとが私の鼻先に乗り、それが静かに顔を圧し潰す。骨が折れ、折れた骨が皮膚を突き破るのも分かる。視界は暗く、日の光も目には入らない。

「特定の人間を生贄にして行う町おこしは、政府のみ使用可能だ。」

 いつだって。

 いつだって、そうじゃないか。

 地方の町がどうやって、人を集めて、金を集めて、やりくりしてるかなんて、東京の人間は何にも理解していない。もうまともな手段じゃないと分かってるのに、人をとどめておくのに必要なことだと言い聞かせなければいけなくなった。

 切羽詰まってる。

 みんな、死ぬ気で町を愛してるのに。

 町から人を奪って、金を奪って、活気を奪ってるだけじゃないのか。

 違うか。

 違うか。

 違う訳ないだろうっ。

 お前らのせいだろうがっ。

 お前ら、クソ共がこうやって一々水をさしにくるせいだろうがっ。

「何か言いたいことは。」

 言葉の代わりに悔しくて涙が出た。

「話せばわかる相手で本当に良かった。」

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