七丁目 幼女のない月の牡蠣はよくない

 女として生まれたから色々諦めたとか、そういうことを言われたくない。

 女だから舐められてもいいだろう、とかそういう事じゃない。

 幼女という年齢を過ぎてしまえば、この儀式で使われることはない。だから、逃げてしまえばいいと何度も思った。

 でも。

 無理だった。

 町の中で生きていくということと、町に対する愛の矯正が間違いなく拘束具として働いた。

 捕らえられてしまってから遠くに逃げる選択肢すら失い、気が付けばそれも自分の人生だと思った。なのに、プライドだけは高かった。何もせず、ただだらだらと寿命を自分の意思とは全く無関係の場所で使われるのに、それを良しとしなかった。

 結局、その結論に至るのに。

 いわゆる。

 よく頑張った。

 でも。

 幼女として、女として生まれたんだからしょうがないでしょ。

 それが何度も何度も分かりやすく頭の中で言い訳として機能した。

 別に諦めている訳ではないのだ。でも、それがまるで正解であって、そのことを理解し自分の中に受け入れることが大人なのだと思おうとした。

 実際。

 大人ではあると思う。

 そして。

 大人になった。

 という言い訳を。

 何もせず、何も築きもせず、何もしなかった自分の人生に使った。

 それが。

 大人としての階段を昇ることなのだと正当化し。

 悦に浸ったのだ。

 幼女という存在ではあると思う。だから、大人たちから見れば、大人にはなれていないから、この考えも幼女の範疇から出ていないのだと思う。

 でも。

 それではいけないのだろうか。

 頑張っても、結果は出なかったし。

 もう、このあたりで良いだろうと思えるところまで来たのだ。

 そうして、それなりの真実と幸せを手に入れたと思えた。

 結果を出すことも。

 努力をすることも。

 状況の好転も。

 自分に自信を見出すことも。

 誰かの権力のおこぼれで飯を食う生き方からの脱却も。

 何一つできなかったけれど。

 幼女だ。

 ただの幼女だ。

 自分の実力不足に目を瞑ることでポジティブに生きる術も見に付けた。

 人に努力をさせて実力不足が露呈しないように権力者の影に隠れる努力もした。

 その都度その都度自分の身を護るためだけの言い訳のバリエーションも直ぐに頭の抽斗から出せる能力も磨いた。

 だから。

 不幸になる訳がない。

 幼女だけど。

 不幸になる訳がない。

 本当だ、絶対に不幸になる訳がないのだ。

 だって。

 一所懸命、いろんな大人に好かれる幼女になった。

 生贄という特権階級を誰よりも上手く使って、自分の立場を維持しながら少しでも自分の生き方が自由になるように動いてきた。

 忙しいのだ。

 確かに、嫉妬もあったけれど、その分忙しいのだ。

 だから。

 こうやって。

 あたしよりもそういうことの全てが上手い人が出てきたら、素直に。

 負けることになった。

 何もない。

 本当に何もない。

 説教臭い分かったような口をきく、クソみたいな大人じゃなく。

 同じ、生贄の幼女に全く反論の余地もないほど言いくるめられて、素手の喧嘩をしようとしても骨を折られて、権力者にすがったのにその権力者すらあたしじゃなくてその別の幼女に骨抜きにされた。

 良かった、と思った。

 清廉潔白とか糞喰らえだろう。

 ロリコン地獄、糞喰らえ。

 そう思っていたけれど。

 一回染まったら、もうそうならない。

 だって、そうだろう。

 今更、綺麗とかどの口がほざく、自分で努力して実力を付けて自分の手で結果を出すとかどの口がほざく。

 もう、そういうことじゃなく。

 そういうあれじゃなく。

 幼女の中でできる限りの努力をしてここに辿りついてそれなりのことをしたはずだ。そして、それなりの結果を出した、それは間違いない。

 だって。

 ちゃんと、身の丈にあったようなことの中で結果を出した。

 恨まれはしたけれど、それは才能があるからそうなったのであって、別にこっちの責任じゃない。その中で、自分を最大限綺麗にみせようとしたし、そのための立ち振る舞いも口調も全部完璧にした。

 ありふれた努力の全ての一つ、一つをしてきた。

 自分の手で積み上げてきた。

 この世界で。

 この場所で。

 この環境で。

 この社会で。

 この糞の中で。

 できることのすべてをやって、利益率の低いことは徹底して排除して。

 負けた。

 だから。

 その負けた相手が幼女で、あたしと全く同じやり方で、自分よりも上手だったから。

 そればっかりは、しょうがない。

 同じ穴の貉に負けたのだからそれなら本望だ。

 なんて思う訳ねぇだろクソ野郎。

「ねぇ、なんであんたそうやって猿轡されてバカみたいな恰好なのに、こっち睨んでんの。」

 生きたかったよ。

 その幼女があたしの耳の中にアイスピックを刺し込み始める。

「ほんっと、話の分かる同い年の友達で良かったぁ。超、幸せ。」

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