第2話 駅
ある北国の小さな町の駅。
ふたりしかいない駅員のひとりは若い新人で、この土地で始めて露寒の季節を迎える。そろそろ駅員の仕事にも慣れてくる頃だった。
ある夜、駅員室の窓口の向こうから呼ぶ声が細く聞こえる。若い駅員は慌ててストーブを離れ、窓口から首を出した。
暗い顔つきの男がぼんやりと立っていた。
「次の電車はいつ来ますか」
最終電車は、今さっき出たばかりである。
「時刻表はそちらですから、どうぞご覧なさい。今日はもう電車はないですよ」
つい投げつけるような言い方になった。男は悲しい顔で頷くと「また来ます」といって、踵を返した。
そのとき先任の駅員が若い駅員を押しのけるようにして前へ出て、男のうしろ姿に声をかけた。
「ご安心ください。その電車は必ず来ます。もうすぐあなたを迎えに来ますよ」
突然、男が一筋の煙になり、暗闇の中に滲んで消えた。
目を剥いてたたずむ若い駅員を横目で見て、先任の駅員が呟くようにいった。
「さっきの最終電車がひとつ前の駅から連れてきたんだろうな」
「連れてきた? 今の男の人をですか?」
先任の駅員は、そうだ、と小さく答えると、うんざりしたようにため息をついた。
「今晩は、もう一仕事あるぞ。風呂はその後だな」
「仕事って……これから何をするんですか」
外は相変わらず寒く暗い。今日初めての雪が、はらはらと降り始めた。
先任の駅員は重々しく垂れ下がった黒い空を仰いだ。
「雪に埋もれる前に片付けなければ……。なぜか、隣の駅は飛び込みが多くてね。轢断死体というのは後始末が大変なんだよ」
先任の駅員は、ロッカーから長い鉄製の火箸とビニール袋を取り出し、若い駅員に手渡しながらいった。
「なあに、いつものことさ。とにかく早く慣れることだよ」
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