本当は計り知れない。だから100点満点が存在しない

 とても良い間がある作品だと感じます。

 主人公格の敏夫が、どういう性格であるかを考えると、少し昔ならば許容されていた不器用さだったのだろうと思います。自分なりに家事を手伝い、自分なりに働き、分を超えた何かをした事はない、そんな人だったのだろう、と。

 そんな人生において、知らない方が良かったものなのか、それとも知らなくても良かったものなのか、という事を考えさせられました。

 多分、バッドエンドではないのだと思います。

 敏夫は最後に絶望や悔しさを覚えた訳ではなく、声もかけられない相手に対して頭を下げ、自分の中で昇華させられたはずだ、と感じました。だからこそ、自分が一番大切に思っている人の、一番大切な人にはなれなかったけれど、一番大切だと思ってくれる人は、いた訳ですから。

 一番にしてくれなかった相手にしても、それが悪い事ではないし、「え? そんな事で」と思う部分、「でも仕方ないな」と思う部分、様々、あります。

 多分、みんな大部分は誠実で正直だけど、ちょっとずつ我が儘な部分があるから、少し苦めのハッピーエンドなのだと思ったのです。

 と、そういう風に私が思った事ばかりを書いていますが、これらの情報は物語中に開示されていません。

 そう考える、感じる余地のある、「間」とでもいうべきものが、この物語には確かに存在しているのです。文章として読み手に向けられているものは、過分でないけど少なくもないというバランスです。

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