第二夜 激流葬
「さきほど息を引き取りました」
病院からの電話を切ると、バケツをひっくり返したような激しいスコールがフロントガラスを叩いていた。
あまりにも息苦しい、恐怖すら感じるほどの豪雨だった。
大型連休の最中、国道246号線は事故の影響もあって、車列は少しも動きそうになかった。
半分冠水した路面にハンドルを取られ、僕はもう病院へ向かうことを諦めた。
路肩に車を停めて虚ろな視線を窓の向こうに投げると、人が死ぬときは現世に残した思いの量だけ雨が降るのだと思った。
しとしとと胸打つような雨が降る日は、誰かが安らかに逝ったのだ。
雷を伴うような激しい雨の振る日は、やりきれない思いで逝ったのだ。
父は最期まで死にたくないとあがいていたから、それがとてつもない残思となって今ここに降り注いでいるのだろう。
窓を砕かんばかりの雨粒の音がうっとうしい。
ラジオから繰り返される、局地的なゲリラ豪雨の速報。これが僕の父によるものだなんて、いったい誰が信じるだろう。
これほどの思いを持ちながら、どうして父は僕を愛してくれなかったのだろう。
言葉にならない悲痛な思いは中空をさまよって、むっとするような強い湿気の中にかき消えた。
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