第七夜 成宮さん —その1—

〈男らしさ〉という至上の命題に対し、考えあぐねていた。


見た目や性格から、僕はいつだって女子寄りのポジションに身を置き、

男子グループからは総じて爪弾きにされる。

それを羨ましいと言う前に、学校生活における僕の身の置き所の無さを察してみて欲しい。


ある日、僕は成宮さんという幼なじみの女の子に、思いきって聞いてみた。


「男らしさって何だろう?」


この上なく、単刀直入に。

すると成宮さんは、あろうことか、学校でも札付きの不良である西山を例に出した。


「西山ってさ、バカだし、ケンカばっかしてるし、うるさいし、最悪でしょ?」


「うん、最悪だね」


「あたしさ、西山に勇気出して一回言ったことあんの。

ちょっと静かにしてくれる? て」


「成宮さんが? 勇気あるね」


「でそ。そしたらねえ、うっせえブス、だって。最悪でしょ?」


「最悪だね」


「そんなある日のことだよ。

学校から帰ろうとしたら、外は土砂降りの雨なわけだ。

やばい、傘持ってない、帰れない。どーしよ、て焦って。頭真っ白」


「それでどうしたの?」


「そこをとおりがかったのが、西山。

彼はおもむろに自分の持ってる傘をあたしに押しつけてさ、わりぃこれパクった傘なんだよ、どっか途中で捨てといて、て言うわけ。

けどそれ、明らかに西山の傘なの。

なんかその瞬間、胸がキュンとしちゃって。これが男らしさだな、て思った」


「なにそれ」


なにそれ、なんだそれ。

僕には成宮さんの話すそのエピソードの、どこが男らしいのかさっぱりわからなかった。


「そんなの、普段から悪ぶらずに品行方正な男のほうがよっぽど男らしいじゃん。

傘欲しかったら園田に頼めば喜んで貸してくれるよ」


「園田はダメ、あれは女の子に傘貸してモテようって魂胆見え見え。

そういうんじゃないんだよなあ、男らしさってのは。

ギャップっていうの? ギャップ萌え?」


成宮さんは女子がよく口にするギャップというワードを連呼する。


「じゃあさ、僕が突然荒くれ出してさ。時折優しさを垣間見せたら、それが男らしさってコト?」


「うんにゃ。君はかわいい顔してるからね。気が狂ったとしか思われないよね」


「……なんだよそれ、手詰まりじゃん」


まったく参考にならない成宮さんの話に半ば呆れながら、もう他人に答えは求められない、こうなったら自分なりの男らしさを模索するしかないと、腹を決めたのだ。


こうして僕は、泥沼の自分改革に身を染めていくことになる——。

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