最高に面白い現代怪異譚

平和な矢染市がある日突然、紫の壁で覆われ、無数の怪異達が蠢く異界となる。
そこに現れたゴシックの死神、音羽黒音。主人公の天奈が、黒音と再会することで物語は始まります。

のっぺらぼうに雪女、朧車など、妖怪が好きな人にはたまらない世界観。魑魅魍魎達が人々を襲い、時には救えない命が出てくることもあるダークでシリアスな物語ですが、決して暗くならないのは、魅力的に活躍してくれる登場人物の存在があるからでしょう。

コンダクターの異名を持つ死神、黒音はゴシックドレスを身に纏い、どこか飄々とした喋り方をするキャラクターです。
どんな時でも余裕の表情を崩さない黒音の強キャラ感に、読者は頼もしさを感じること間違いなし。蒼い鎌を振るって戦う戦闘シーンは迫力があり、どこか優雅さも持ち合わせています。

また、主人公の天奈も矢染市の異変と同時に狐と融合し、怪異融合者となってしまいます。心優しい彼女は、怪異によって傷ついていく人々に心を痛めながら、授かった力を人々を癒す為に使うことを決めます。

攻めの黒音、癒しの天奈。
各キャラクターの役割がハッキリしているが為に、彼らが活躍する場面は鳥肌が立つくらいかっこいいです。
最終決戦の緊迫感のあるバトルは見事としか言いようがありませんでした。

また、和を感じさせる美しい語彙が、リズミカルに文章を彩ります。スルスルと頭に入っていく文体は、まるで音楽を聞いているかのよう。タイトルにある「あたらよ」。この意味を知った時は唸らされました。

非常に完成度の高い物語です。
妖怪好きはもちろんのこと、そうでない方にも一度は読んでほしい素敵な作品です。

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