第5話
「ストロベリー、そろそろ15分だよ」
僕が熊男の背中から立ち上がるとストロベリーは、ヒラヒラの服の隠しポケットから懐中時計を取り出し「あら?全然気が付かなかったわ」と言った。
「そっちはもう良いのかしら?」
「あぁ、僕は無駄な労力は使いたくない主義だから」
「うふふ、スマートね」
そう言って笑う姉さんはあんなにもアイゼンをボコボコにしたというのに返り血一つ浴びてなかった。
僕としては、姉さんの服を汚したくないという主義の方が徹底しているなぁ、と感じられる。
「15分よ」
「僕達の勝ちだね」
僕達はどちらともなくハイタッチを済ませると辺りを見回した。
さすがにこれぐらい時間が経つと他のペアたちも勝負をつけたところだった。
「お、おい、騎士団員を倒しちまったぞアイツら……!?」
「マジかよ!」
「片方は瞬殺で、もう片方は……酷ぇ有様だぜ」
「アイツらとは戦いたくないな」
そんなざわめきが僕たちを取り巻く。
そう、僕達の狙いはこれだった。
圧倒的に強いと思われていた騎士団の出鼻をくじくこと。
そして、僕達の存在を知らしめ、勝負を仕掛けにくくすることだった。
その時再び銅鑼が鳴った。
「一次予選終了です!勝ち残った方はその場で待機してください!負けた方は係員の指示に従って退場してください!行動不能の方は医療班が搬送します!」
そうアナウンスが流れ、僕達は目の前に転がってる男二人を見下ろして担架を呼ぶべきかどうかと考えた後放っておく事にした。
残念ながら、僕達はそこまで親切ではないのだ。
その時だった、熊男の背中がピクリと動き、いきなり起き上がると僕達に向かって拳を振るおうとした。
が、それは叶わなかった。
小さな破裂音がすると、熊男は膝から血を迸らせ崩れ落ちる。
「全く、敗者が見苦しいな」
視界の端で群青を捉えると、硝煙の香りを纏った男が地面に沈んだ同じ制服の男達に歩み寄り二人を見下ろす。
「あら、お仲間さん?」
ストロベリーが笑顔で火薬臭い男に問いかけた。
「まさか、ボクは彼らに戦力外通告を私に来たのですよ」
「うぐっ……副団長殿、なぜ……」
熊男が呻きながら、副団長とやらに縋る様な、どこか畏怖の混ざった目線で問う。
「何故だと、この負け犬め。さっきも言っただろう、貴様らはもはや戦力外だ。永久にな」
「そ、そんな……」
「これは、団長の指示でもある。大人しく従え。それとも貴様ら如きに団長の手を煩わせるつもりか?」
冷たく、有無を言わせない口調だった。
「分かったら、騎士団のバッヂを寄越して、二度と誉れ高き騎士団員の肩書を名乗るな」
「う、うぐぅ……」
熊男は、自らの手で団員の証である獅子と剣の紋章のバッヂを外すと恐る恐る渡した。
「アイゼンは行動不能か。仕方がない手袋が汚れますが直々に外してやろう」
そう言って、殴打の後と流した血で汚れた男からバッヂをもぎ取った。
すると、トテトテと軽快な足音を立てて群青の制服を纏った少年が手を振りながら駆けてきた。
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