第2話

僕は、忌々し気にパンをちぎっては口の中で噛み潰した。

口の中に何か入れていないとクソみたいな悪態を吐いてしまいそうだからだ。


「オイオイ、レイ。飯ってのはもっと幸せそうに食うもんじゃないのか?」

「そうだね」

「そうだねって、お前、今にも人を殺しそうな目してるぞ」

ジャックに言われて、慌てて目の前の画面を見て自分の表情を確認する。

なるほど確かに、ストロベリーに比べて地味目の顔つきではあるが怒りや殺意が湧いているときの目は、彼女と全く同じだった。


落ち着かないと。

僕はパンを置き手首に指をあてると深呼吸をしながら自分の脈をとった。

少し早い脈が落ち着くイメージをしながらゆっくりと10数える。

やがて脈が落ち着くと僕はにこやかな表情を作って、ジャックに「すまない」と言った。


「なに、目の前でスプラッターショウが始まったら飯が不味くなるから言っただけだ」

「いや、普通、飯が不味くなるってレベルじゃないと思うけど」

「何言ってんだよ俺だって、何も画面越しの死体ばっか見つめてる訳じゃねぇ」

「……そうだったね」

彼もまた「我々」の友人だったのを時々忘れそうになる。

「そういや、ルチアーノのおっさんとの契約ってまだ残ってるのか?」

「あぁ、あと五年分はね。それと、仮にも僕達のボスだぞ、おっさんなんて呼ぶな」

「へいへい」


ドン・ボスコ=ルチアーノ。

僕達ルシフェロのボスにしてファミリーの敬愛すべきファーザー。

あぁ、今どうしているのだろう、出来ればひどい目に遭っていてほしくない。

せめて、面会が叶えばと何度も思ったが僕達はそれすらできない。

ジャックもボスと契約している身だから間接的にメッセージを送ることも出来ない。

出来る事と言えばジャックに頼んで新聞広告に「苺とワタリガラスを見つけました。とても元気そうです。」と載せてもらうくらいだ。

終身刑の受刑者でも新聞くらい読めるだろうというジャックの発案だった。


だが、脱獄を恐れて幹部6人とランダムに独居房を換わっているのだ。

果たして、ちゃんとボスに届いているのかどうかすら不明だ。

でも、それでも僕達はボスに届くか分からないメッセージを送り続けているのだった。


「レイ、どうした?」

「ねぇ、ジャック。ボスは、皆は、生きてるよね……」

「何だよいきなり!心配すんな、監獄で死亡者が出たら必ずどっかから情報が流れる。少なくとも、死んじゃいないさ」

「でも、僕は、僕達は……」

「レイ、信じろ。あのルチアーノさんと6大幹部、それに精鋭の構成員達だぜ。お前が、お前らが信じてやらねぇでどうすんだよ」

「怖いんだ……ジャック」

「安心しろ、ルシフェロは終わっちゃいねえ。お前らが足を止めない限り生き続ける」

「ジャック……」

ジャックは安心させる様に僕の頭を優しくなでる。


「さ、先ずは飯だ。腹減ってたら戦えねぇぞ」

「うん」

僕は、滲みかけた視界を晴らすかのようにパンにかじりついた。


そうだ、ボスは言っていた。

「歩け、諦めるな。歩き続ける限り道はある」と。

僕は、歩くために腹を満たした。

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