第3話

部屋に戻ると、すでに普段の格好をしたストロベリーが居た。

手には茶色のロングウィッグをもって脱ぎ散らかされたギャルっぽい服が部屋の隅でうずくまっている。


「おかえりレイヴン」

「ただいま、ストロベリー」

言いたいことは色々あったが、先ず僕は買ってきたカフェオレとカフェモカをテーブルに置いた。


「あ、飲み物買ってきてくれたのね!ありがとう!」

「口直しのついでにね」

「……えーっと、見てたの?」

「うん、全部じゃないけど」

やはりこの双子の片割れは勘が鋭い。

僕が話を切り出さなくても僕が言わんとしていることが分かるみたいに。


「僕は、騎士団との接触はあまりお勧めできないな」

「あら、私、結構演技派よ。その証拠に誰も気づかなかったわ」

「僕と、ジャックは気づいてたよ」

「ジャックに会ったのね。なら仕方ないわ。でも、彼は敵じゃないわ」

「敵を欺くならまず味方からだよ」

そう言って僕は飛ばしの携帯の一つをストロベリーに渡した。


「今時ガラケーなの?」

「そっちの方が有利な面もあるからね。5番を長押しすれば僕の携帯に繋がるように設定したから、持ってて」

ストロベリーは目をぱちくりさせた後、「心配性なのね」とクスクス笑った。


「もう少ししたら、ペアの方の開会式が始まるからそれを飲んだら出発しよう」

「はーい」

ストロベリーはウィッグをジッパー袋に仕舞うと黒いシスター風のロリィタ服で優雅にカフェモカを飲み始めた。

さて、僕達の戦いが始まるわけだが、嵐が起きる前の静けさを堪能しても罰は当たらないだろう。

そう思って僕はカフェオレに口を付けた。

静かな、でも緊張感のある時間が流れる。


すると、ストロベリーはにっこりと笑んで僕の名前を呼んだ。

「何だい、ストロベリー」

「何でもないわ。ただ、呼んで確かめたかっただけ」

「何だよそれ?」

僕が苦笑するとストロベリーもいつもの様に笑んだ。


「さてと、そろそろ開会式だ。行こうストロベリー」

「えぇ、分かったわ」

開会式の会場はまるで巨大な円形闘技場で、その一番上、高みの見物に向いた場所に国王様とやらは座っていた。

花火や紙吹雪、数々の歓喜の声が観客たちが僕達を迎える。

絶対、絶対に勝ち抜いて見せる。

そして、あの高みの見物に興じてる奴を玉座から引きずり降ろしてでも僕達の願いを叶えさせる。


「レイヴン」

「ストロベリー」

僕達は、お互いにどちらともなく手を伸ばすとギュッと硬く手を握り合った。

僕達は、運命を切り開く鋏。

どちらが、欠けても意味はない。

国王の長いスピーチが終わると銅鑼が鳴らされて、戦いの火蓋は切って落とされた。

さあ、敗者復活戦なしの一発勝負、予選試合が始まる。

僕達の目的は常に天辺だ。

最初の勝負で負けるわけにはいかない。


「レイヴン」

「何だい」

「大丈夫、私が付いてるわ。だから、いつもの様にやればいいのよ」

「そうだね、ありがとう、ストロベリー」

「感謝はまだ早いわ、全ては終わるまで分からないんですもの」

握りしめた手は暖かく、僕は、少しだけ肩の力が抜けた。


大丈夫、きっと、ボスを、皆を、助け出すんだ。

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