第7話
暫く、武器の確認をしていたら風呂上がりのストロベリーが急に背後から抱き着いてきた。
「何だい?ストロベリー」
「幽霊じゃないって確認してるの」
胸の中心、心臓の上に触れられ、そのまま背後から頬を寄せられる。
「不安なのかい?」
「レイヴンがね」
そして、姉さんの薄いが膨らみのある胸を背中に押し当てられる。
背中越しに温もりと微かに鼓動が伝わってきて、僕は張り詰めた糸が少しづつ緩んでいく気がした。
あぁ、落ち着く……。
「どうしたの?レイヴン」
「いや、姉さんには敵わないなぁって」
そう口を零すとストロベリーはくすくす笑って、僕の胴を撫でまわした。
「当たり前でしょう。私はあなたのお姉さんですもの」
「何だよ、僕の事足蹴にして生まれて来たくせに」
そう言って、僕は瞳を閉じ過去の事を反芻した。
僕達が産まれたのは冬の厳しい夜。
まともな病院に搬送される前に闇医者の下に運び込まれた母さんは僕達を産む時に命を落とした。
その後闇市に売られそうになったところを、丁度そこで治療を受けていたボスに拾われた。それから僕達は、幼い頃から黒社会で生きるすべを叩きこまれタフに育った。
僕達にとってボスは父親であり命の恩人だ。
だから、僕達は勝ち抜かなきゃいけない。
恩に報いるため、ファミリーを助けるため。
「レイヴン、大切な事は忘れてはいけないけど。それに囚われ過ぎてはいけないわ」
「でも、ストロベリー。僕達は……」
「大丈夫、最後には全て上手く行くわ」
僕は、何が大丈夫なのか分からなかったが、何となく上手く行くような気がした。
「お風呂入ってきたら?」
「そうだね」
熱いシャワーを浴びると僕の中で淀んでいた何かかが洗い流されていくような、そんな感じがした。
「ボス……卑怯者だった僕を許してください」
口からこぼれた言葉はシャワーの音に混ざって排水溝に流れていった。
体を拭き、寝間着に着替えベッドルームに向かうと、先に風呂を上がったストロベリーがベッドの上で幼子の様に眠って居た。
そうだよな、僕達まだ成人すらしてないんだよな。
そう思いながら僕は自分の手のひらを見た。
訓練で、何人殺したか分からない。
僕もストロベリーも、まだまだ子供だというのに僕達からは死と血の臭いが漂っている。
セミダブルのベッドに潜り込みストロベリーの体に密着し乾いた髪の匂いを嗅ぐ。
香水でも振っているのだろうか、シャンプーの清潔な香りの上に甘いお菓子のような香りがした。
その香りを嗅いでいると、何となく安心してきて僕は眠りの中へと落ちていった。
朝、目を覚ますと、ストロベリーのは仄かな残り香だけを残していなくなっていた。
「ストロベリー?」
どこに行ったんだろう?
ベッドから抜け出し彼女を探す。
すると、テーブルの上に手書きのメモが置かれていて、丸っこい文字で
「朝ごはん食べに行ってきます♡」
と、書いてあった。
そうか、もう、そんな時間か。
僕は時計を見て背伸びをした。
すると、胃袋が空腹の音を上げた。
僕も何か食べに行こう。
そうして僕は、普段着に着替えて部屋を後にした。
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