第5話

「ローゼン・クロイツ!!」

愛らしいが憎しみが強くこもった声が響く。


「おやおや、貴女は指名手配犯のストロベリー嬢ではありませんか。いきなり刃を向けるなど、マナーがなっていませんね」

「煩い!3年前の恨みここで晴らしてやるわ!」

「やれやれ、これだから悪党は……」


ナイフとサーベルが鍔迫り合い二人の間には火花が散っている。


氷のような鋭い目、皮肉なまでに整った顔と体型に騎士団長の銀のブローチ。

忘れもしない、アイツは、王立騎士団長、ローゼン・クロイツだ。


「アンタみたいなのにボスが捕まったなんて最大の侮辱だわ」

「おや、そうですか?下賤な悪党に鉄槌を下した。我々にとっては正義の正当なる勝利だと捉えてますが?」

「……してやる……殺してやるわっ!!」

「ストロベリー!!」

僕は慌てて、ストロベリーを羽交い絞めにすると、ローゼンから無理やり距離を取った。


「離して、レイヴン!アイツを殺せない!!」

「落ち着いて!今は駄目だ!」

「やれやれ、どうやら既に登録済みのようですね。これでは、捕まえることも出来ない」

そう、この大会には犯罪者も紛れている。騎士団がエントリーすることも何となく予想が出来た。

いくら、誰でも参加できるとはいえとんでもないやつの願いが叶っては困るという訳だ。

しかし、たとえ犯罪者であったとしてもエントリーしてしまえば大会が終わるまで逮捕する事は出来ない。


「大会が終わったら無様に負けたあなた方を警察まで連行して差し上げますよ」

「どうかな?君は3年前僕達を取り逃がした。そして、僕達は反撃の刃を絶やさずに手入れしてきた」

「ふふっ、そうですか。でも、溝鼠がいくら虚勢を張っても正義が勝つのは世の常ですよ」

「じゃあ、私達がアンタに勝てばその言葉は嘘になるわね」

「そうですか、あぁそうそう。言い忘れてました。我々騎士団の願いはこの国に死刑制度を復活させることですよ。ではごきげんよう」

そう言うとローゼンは踵を返してスタスタと歩いて行った。


「レイヴン、何で止めたのよ!」

「ここで無駄な事をする必要はない。それに、敵の土俵に立って正々堂々倒した方がスッキリするだろう?」

「……そうね、そうかもしれないわね」

やはり、ストロベリーは暗殺者には向いて無さそうだ。

これじゃあ、まるっきり鉄砲玉だ。

まあ、そんな双子の片割れを止めるために僕が居るようなものだけど。


「取り合ず、ここから離れよう。またアイツに出くわしたら嫌な気持ちでいっぱいになるだろう?」

「うん……」

とぼとぼと歩くストロベリーを連れて僕たちは大会参加専用の所謂選手村へと向かった。

受付カウンターで参加証を見せてルームキーと部屋の位置を記した紙を貰い早速荷解きを済ませた。


「ねぇ、レイヴン。あなたは、アイツに遭った時憎いと思わなかったの?」

ベッドに腰かけてストロベリーが言う。

僕は、そんな彼女を見て本心を口にした。

「思ったよ。この世で一番憎い奴だと思った。だからこそ奴を暗殺者として正々堂々倒してやりたいと思ったのさ」

「ふふっ、暗殺者と正々堂々って不思議な組み合わせね」

「お腹すいただろう?デリバリーもやってるらしいから今日は部屋で食べよう」

「そうね。何が有るのかしら。美味しいスイーツが有ると嬉しいんだけど」


そうして嬉々としてメニューをめくる姉さんを見て僕は安堵した。

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