第2話
「ねぇ、レイヴン。まだ歩くの?」
こんな所私は嫌よ。と言いたげにストロベリーが僕に声を投げかける。
「いや、目的地はここだよ」
繁華街の奥の怪しい質屋、僕はclosedの看板を無視してドアノブを回した。
鞭打たれたかのように悲鳴を上げるドアをくぐると、中は暗くおおよそ質屋とは思えないほどの埃とカビと湿気が居座っている。
「けほっ、こほっ!何ここ、換気が必要なんじゃない?」
そう言って咳き込んだストロベリーがドアを開けっぱなしにする。
すると、奥の奥ドアから差し込む光が届かない辺りから静かに浮かぶように人の気配がした。
「扉を閉めてくれないか、闇が侵されて不愉快だ」
干からびた老人のような声が奥から響く。
「えー?」
「ストロベリー、ドアを閉めて。嫌なら外で待っててもいいから」
「嫌、レイヴンと一緒に居る」
「なら早く扉を閉めてくれないか、さっきも言ったように不愉快だ」
「うん……」
渋々ストロベリーが軋むドアを閉めると、辺りは闇に覆いつくされた。
それでも僕達はこの闇の中が見えるようにするすると質流れの品々を避けて奥のカウンターに進んだ。
煙草の臭いがして、大きく肺に煙を取り込む音がする。
だが次の瞬間ジュッと音がして焦げ臭いにおいが辺りに漂い始めた。
「とうとう始めるつもりか?対の毒牙よ。お前ら本当に居場所が戻ると思っているのか?」
「うるさいよ、デイジー。それよりも、うちの武器庫から武器を引き出したい」
「ウチは質屋だ。質草にした物を返して欲しけりゃ金を出せ」
「分かってる」
そう言って僕は現金の入った紙袋を差し出した。
暗闇の中でカサカサと乾いた紙幣を数える音がしてから少しすると、ドサッと音がして黒革の鞄が置かれた。
「お前らのボスの預けた品だ。用が済んだら、とっとと行け」
「有難う、デイジー」
そう言って僕は鞄をもって質屋から出ようとした。
「気をつけろ、お前達から死の臭いがする」
「死なら、僕達の友人さ。行こうストロベリー」
「バイバイ、質屋さん」
ストロベリーはここにもう用がない事を察すると闇に向かって手を振って一目散にドアを開けて外に出た。
僕もその後を追って外に出た。
「やだぁ、スカートが埃塗れ」
「だったら、そんな恰好しなければいいのに」
「それはもっと嫌」
「はぁ……」
やっぱり、この双子の片割れは分からない。
そんなにボスに「可愛い」と言われた事を大事に思っているのか?
僕としては可愛い恰好には慣れたが、いまだにお揃いのお着せを着ていたころのストロベリーが懐かしくてたまらなくなる時が有る。
そう、あの頃は髪の色も僕と同じ黒色だったし、グリーンのカラコンなんて入れてなかった。
まぁ、オシャレをしたいお年頃と言うヤツなんだろうな。
僕は、そう自分を納得させて双子の片割れの隣を歩いた。
似て居なくても僕たちは世界一お互いに近い存在だと思っている。
「ねぇ、レイヴンこれからどうするの?」
「王都行の列車に乗って、中央に行く。それから、役所でこの大会の受付をするんだよ」
「ふぅーん……」
「それより、ストロベリー。中央に近づくほど周りの目は厳しくなる。僕達の正体は受付が終わるまで絶対にバレちゃいけないから」
「分かってるわよ、私はそんなに馬鹿じゃないわ」
何事も無いといいんだけどな、本当。
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