第一章「スタートライン」
第1話
ここら辺は繁華街だが日中は人通りは少ない。
そもそも、ここは昼に来るような所ではないのだ。
右も左も合法かどうか怪しい酒場にラブホテル、何を置いているのか分からない怪しい店ばかりで、
夜の闇を侵すような人工の光の中では素晴らしく誘惑的だが、
太陽の光の下では、化粧を落としたかのように乾いた吐瀉物にゴミそれにわずかな腐臭
そんなひどい場所だ。
だが、こことももうお別れだ、そう思うと妙な寂寥感が胸の片隅に小さく湧く。
まぁ、潜伏するにはいい場所だったからな。
そう、自分を納得させながらショートケーキの彼女ストロベリーの追って来れる速さで僕は歩いた。
時々黒く大きな棺型の鞄を背負い直しながら。
事の始まりは三日前の夜のニュース番組だった。
十七代目のこの国の王様とやらが暇と権力と金を持て余して何やら大会を開くという物だった。
無論、只の大会なら爆薬でも仕掛けて混乱に乗じてボス達を刑務所から助け出す計画でも考えるが、僕はその大会の内容を聞いてそれを止めた。
その大会は基本何でもありで一般人から逃亡中の極悪人までこの国に居るものなら誰でも参加がOKだというのだ。
しかも、優勝者には王家の名に誓って何でも一つ望みをかなえると来た。
僕はそこで、何か胡散臭いと思い自分の最も信頼できる情報屋に問い合わせた。
飛ばしの携帯でもう暗記してしまっている番号をコールする。
数回コール音が鳴った後、少し作ったような女の声で
「お客様のお掛けになった番号は現在使用されておりません」
と聞こえてきた。
「ジャック、ジャーック、僕だコード《メタリカ》だ。分かったらふざけるのを止めてくれ」
「ああ、レイヴンか。別れてストーカーになっちまった14番目の彼女かと思ったぜ」
「またかよ。それと名前で呼ぶな、何のためのコードだよ」
僕は呆れながら用件を切り出した。
「で、聞きたいことが有るんだが良いか?」
「何について?」
「今回の国王が開いた大会についてだが、一番聞きたいのはその大会が本当なのかだ」
「答えはYESだぜ。国王の署名と紋章入りの公式な張り紙も張り出されてるし公式サイトまで有るぜ」
「有難う。で、今回のお代は?」
「今度ストロベリーちゃんとお茶したいな。二人っきりで」
「それは駄目だ。家族のル-ルに反する」
「チェッ、せっかく二人でデートかと思ったのに同伴者付きか」
「ファミリーの掟は守る。だが、それと同じくらい姉弟も守る主義だ」
「ハイハイ、分かったよ~。シスコン君」
「うるさいなぁ。じゃあ、切るよ」
電話を切り僕は今回の大会と色々と立てた脱獄のプランを立て直した。
一つ、勝負でもしてみるかな……。
死刑制度の無いこの国で、終身刑となったボスや幹部連中を刑務所から助け出せるとしたら。
僕は、どんな手段も厭わない。
その事をストロベリーに打ち明けると、彼女は今すぐにでも飛び出していきそうな雰囲気で同意してくれた。
その晩、僕達は決意表明のために久しぶりに一緒に眠った。
手を繋ぎ、僕達は運命を切り開く一挺の鋏だと互いに誓い合った。
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