第3話

ギリギリで間に合った中央行の列車に乗り込み、しばらく揺られているとチラホラと普通の者ではない気配を感じた。

おそらく僕たちと同じ大会出場者だろう。


軽く車内を観察し、それから隣にいるストロベリーに目線を映した。

双子の姉は只、窓の外を眺めて居るだけなのだが、周りから薄っすらと好奇の視線が注がれている。

やっぱり目立つな。

仮にも逃亡中のマフィアの残党なのだ、あまり目立たないで欲しい。

そう思うと胃の中にムカデでもいるかのような嫌な感じがする。


だが、当の本人は飽きずに窓の外を眺めて居る。

ストロベリーの服の趣味についてあれこれ言うつもりはないが、少しは大人しい恰好をしてくれないかと心の中で思う。

全く、唯でさえロリィタファッションなんて目立つ格好なのに、髪まで染めて……。しかもピンク、鮮やか過ぎるほどにピンク。その上リボン付き兎耳カチューシャだなんて、何を考えているのか少々理解に困るよ。


その時だった、小さくカシャッとシャッター音がした。

そっと振り返るといかにもヤンキー面した男二人組がニヤニヤ笑いながら。スマートフォンをこちらに向けている。

しまった、もしかして正体がバレたのか!?

「ちょっと、今の写真消してもらえる?私、見世物じゃないんだけど?あと土下座して」

と、静かに怒気を含んだストロベリーの声がした。

なんと、ストロベリーがヤンキー二人組に突っかかって居たのだ。


「あっは!ショウ、こいつ頭空っぽの馬鹿だと思ったら、マジウケること言うんですけど」

「確かに、コスプレメイドは写真撮られるのが趣味じゃねーの」

「何ですって……?」

ま、まずい!ストロベリー、頼むから大人しく写真だけ消させてくれ!

そう願うも虚しく、ヤンキー二人はストロベリーにガンを飛ばしながら詰め寄る。

「さっき何つった?土下座しろだと?ふざけるのは格好だけにしろよ、それとも死ぬか?」

ストロベリーも負けずに睨み返すが、彼女の可愛いの濃縮還元スタイルでは意味なしだ。

「ふざけてなんかないわ。私が本気で怒る前に写真を消して、土下座して謝って!」

「おーおー、怖えなぁ!生意気だしこのチビ潰しちまうか」

「そうだな、今なら泣きながらパパを呼んでもいいでちゅよ、おじょうたん」

『ブッ、ギャハハハハハハハッ!!』


あーあ、もう駄目だ、姉さん完全にキレたな。

ストロベリーが馬鹿笑いをする不良の脛を素早く蹴り飛ばすと小さな悲鳴とともにスマホを握る不良の片割れの手からスマホが落ちる。

床に落ちたそれをストロベリーは思い切り踏み割った。

画面が割れたスマホは2,3回点滅したのち画面が真っ暗になった。

「てめぇ!何しやが、ぐあっ!?」

胸座をつかもうとしたヤンキーの片方が宙を舞う。ストロベリーがカウンターで投げ飛ばしたのだ。


「舐めんじゃねぇ!!」

もう片方が襲い掛かるよりも早く姉さんは兎の様にぴょんと飛び上がり空中でくるりと回った。

スカートが白い花の様に広がり靴の踵が襲い掛かろうとしたヤンキーの米神にクリーンヒットして沈黙した。

「て、てめぇ、よくも!」

投げ飛ばされた方のヤンキーが起き上がろうとした瞬間ストロベリーは相手の股間すれすれを列車の床がへこまん限りにダンッ!と音を立てて踏みつけた。

「テメェら、タマ失くしたくなかったら二人一緒に失せな」

地の底から響くような声で姉さんが言うと戦意を喪失したヤンキーは沈黙して床に沈んでいる片割れを引きずって最寄りの駅で逃げ出した。


「ストロベリー」

僕が名前を呼ぶと彼女は何事もなかったように微笑んで壊れたスマホを優雅に拾い上げた。

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