第13話 二日目
ベッドに横たわる私の上で、見事な肉付きをした艶めかしい女性が巧みに腰を使いながら涙混じりの嬌声を上げていました。
その声が広い部屋に反響するごとに、首の後ろがゾクゾクとします。
彼女は、次女──上の姉でした。
二の腕で挟み込んだ大きな胸は腰をあげる度に贅沢に波打ち、貫く瞬間に根元に触れる尻臀の冷たくも柔らかい感触がたまりません。
触れるシーツがいつもと違ってあまり汗を吸わないのも、新鮮で興奮します。
ふと指先に触れる感触があったので見れば、そこでは一糸纏わぬもう一人の女性が荒く呼吸を繰り返しながら、体を丸めて横になっていました。
上に跨る二女と肉付きで比べれば、やや幼さの残る肢体ですが、そのスタイルやバランスで言えばまるで彫刻品のような美しさを誇っています。世の男が正妻に迎えようとするならば、この人の様な人物を望むことでしょう。
そこで気が付きます。
その形のよい尻をこちらに向けて頬に張り付く髪を払いもせずに肩で息をしているのは、三女ではありませんか。
そして三女の腿の間からはごぽりと白濁が零れ伝っています。
私は混乱しました。
普段いがみ合っている二人が、こうして同じ床で私を抱くはずがありません。
朝晩は主から性技の手ほどきをするようにと命を仰せつかっている三女が私を使って離しませんし、昼はそんな三女をからかうために次女が私を専用のプレイルームに幽閉するので、そもそも裸を見せ合うということもしません。
一体これは───。
「う……っ!」
そんなことを考えていると、唐突に吐精してしまいます。
それは普段の何倍も気持ちよく、そして幸福に思えました。熱い感触が、モノにねっとりと絡みつきます。
その瞬間。
急激に視界が白く薄らぎ始めました。
「──さん、起きてくださいイリスさん! 朝ですよ!」
「……っ」
がばりと上体を起こしたところで、急速に思考が回り始めました。
見ていたのは、夢。
ただそんな漠然とした印象が色濃く脳内を占めるばかりで、肝心な中身までは思い出そうとする側から薄らいでは霧散して行きます。
ただ確実に言えることは、二人の姉が登場したことと、とても気持ちがよかったと言うことでした。
「目、覚めました?」
再度かかった声に、肩を震わせます。
そうです、ここはアステライトの邸宅ではないのです。フォルトレイン学院の寮の一室です。
その事実を忘れていた事に驚きつつ、内心焦りながらゆっくりと前髪を抑えて声の主に向き直りました。
「おはようございます、シャルロット」
「おはようございますイリスさん。……大丈夫ですか? なんかうなされてましたけど」
「え、そ、そうだったんですか。それは、ちなみにどんな感じに」
「いえ。うーん、とか、うっ、とか。そんな感じです。たまに息も荒くなったりして結構心配だったんですけど、本当に大丈夫ですか?」
だらだらと冷や汗をかきます。
それでも、この様子でしたら大丈夫だったのでしょうか。まさか初日にしてルームメイトが淫夢を見ていただなんて知られた日には首をくくるしかありません。
「大丈夫です。多分、慣れないベッドで寝苦しかったのでしょう」
「うーん、確かに。随分といい羽毛使ってますよね。さすがフォルトレイン学院」
そんなことを言うシャルロットは、薄手のナイトドレスに身を包みながら片手に水の入ったグラスを持っていました。
私よりも幾らか早く起きられたのでしょう。
部屋の時計を見れば時刻は七時半とちょっと過ぎ。予定よりも30分以上遅い時間でした。
「す、すぐに用意しますね」
「ゆっくりで大丈夫ですよ、イリスさん。私ちょっとお手洗借りちゃいますね」
そう言って廊下の奥に姿を消したシャルロットを横目に、私はそうっとシーツをどけて、ナイトドレスのスカートをまくりました。
「わ……」
なんということでしょう。
下着から顔を出したそれを含め、スカートの中身はべっとりと白濁液で汚れていました。
結局昨日は朝に別れの挨拶として三女と交わっただけなので溜まりに溜まってしまっていたのでしょう。
こんなことはここ最近で初めてのことです。
「これは、問題ですね」
汚れ、そして匂い。
遊び慣れた方なら、きっと一瞬で気が付いてしまわれるはず。
シャルロットのような純真な方でも異変には気が付かれるでしょう。
この先六年ここに居ることを見据えて、何か対策をしなければなりません。
毎日、私の肉棒を可愛がってくれる姉達はもう居ないのです。どうにかして
早々に似た色のナイトドレスと下着に着替えると、私は白濁にまみれた布を持て余しつつ頭を抱えました。
昨夜はミラージュ先輩がテーブルに来られてから、それはもう盛り上がってしまっていました。
主に、シャルロットとミラージュ先輩が。
気が合われるのでしょう。
話のツボが似ていたのか、尽きぬ話題は目まぐるしく変わり、気が付けば席を移動したナイトバーで深夜の二時まで話し込んでいました。
若干、二人に嫉妬しないでもありませんでしたが、しかしそこは流石のお二方。
しっかりと適度に話には混ぜてもらったので、退屈に感じることはありませんでした。
なので、とても眠いのです。
誰よりも楽しんでいたシャルロットがこんなにシャッキリと朝起きられるとは素直に凄いと思います。
私は少々、昨夜は飲みすぎたかもしれません。
しかし語らいに欠ける日は酌が進んでしまうというものでしょう。
手早く昨日と同じレストランで食事を終わらせると、私達は何とか予定通りに寮を出ることが叶いました。
ぞろぞろと周囲にも先輩や同年代の方々がいらっしゃるため、その流れに乗る形です。
「これは軽い二日酔いですね……」
「えー、大丈夫ですか。確かに昨日、結構飲まれてましたね。
まだ十代半ばなんですから肝臓に良くありませんよ。家では普段から飲むんですか?」
「そんなに飲まないですよ。たまに上の姉が家の中でお酒に溺れる会……いわるゆる飲み会というのを勝手に開いたりしてまして、そこに巻き込まれる日はとても飲みましたね」
「え、それってもしかして各界の有力者達が集まって酒池肉林を愉しむ的な……!?」
「い、いえ、そんなに目をキラキラとさせないでください。参加者は全員家の使用人ですしみんな女性です」
「使用人!? 凄いですね……。そんなことされている方、聞いたことがありませんよ。アステライト家ってもっと厳しくて地位や名誉に保守的なのかと思っていました。飲み会?ってやつ、かなり楽しそうですね」
実際は私一人が主に次女によって搾り取られるのと、その次女が使用人相手に酒池肉林を繰り広げる会なのですが。
「そう言えば教室ってどこでしたっけ」
「え……と、多分この建物の二階ですね」
学内のあらゆる場所に流れるせせらぎの音を聴きながら、ようやく長い長い階段を上り終えた頃。
私達はパンフレットを片手に、昨日も来た大きな建物を見上げました。
「大きいですねえ」
「中はまるで宮殿のようでしたよ」
どうやら上級生になるにつれ上の階に教室が割り当てられるそうです。そこら辺は寮の利用施設と同様のようでした。
ただ階段を上っていて思ったのが、四階とかまでこれを毎朝登るのはとても体力的に厳しいものがあるということ。
校舎の正面階段を上り終え、膝を震わせている中でこれを踏破するのです。
たかが二回と言えど、最後は息が上がってしまっていました。
シャルロットも周りの方も同様で、少しづつ立ち止まりながらの方もいらっしゃった程です。
「イリスさん、これは、辛いですね」
「は、はい。朝はやはり、余裕をもって出なければ、ならない、ようです」
一学年約百名。
約、とう言うのは百名より少ない意味での約。というのも、やはり最初にここへ訪れた時に教員の方から言われた最終試験と呼ばれたものに、何人かは認められなかったらしいのです。
そんな話が、朝食の時に隣の席で交わされていました。
その約百名は、二つの教室に分けられます。
一つはクラス
一つはクラス
私達二人は同じ一年生のクラスRに配属されていました。
最初は幸運を喜んだのですが、どうやら配布されていた書類に目を通していると、ルームメイトは特に最初のうちは行動を共に出来るように図られているとのことでした。
しかし、それでも嬉しいことに変わりはありません。
なにせ、この一夜でよく分かったことですが、一足先に学院に来られている方々は既に幾つかのグループを作られていたようなのです。
廊下を進む内にも、こうして私とシャルロットのように二人で歩いている方は居ません。
ほとんどは最低でも四人、多くて八人程で集まられていました。
正直、とても周囲の視線で息苦しく、肩身が狭い想いです。
そうこうして教室と呼ばれる部屋に着くと、まずその形状に驚きました。
まるでコンサートホールのように半円状の生徒の席が、一般的な建物の二階程度の高低差を使って立体的に並んでいたのです。
それは講義室といった様相。
箱のような部屋を想像していた私にとって、少し衝撃的でした。
思えば廊下の高さが大分あると思ったのです。
作りは劇場に似ていて後方の扉からも階段を使って出入りできるようになっているようでした。
「あ、イリスさん、やっぱり隣の席です!」
そんな周囲から向けられる瞳が冷たく肌に向けられる中、部屋の入口付近に貼られていた紙を見てシャルロットが叫ばれました。
人だかりの中、一斉にじろりと睨めつけられます。
分かりますが、正直あまり共感はしたくない感情の波です。
確かに淑女たるや大きく口を開けるな、腹から声を出すなと言い含められるのが常ですが、しかしシャルロットのそれは純心から来る陽光にも似た明るく温かいもの。
少なくとも、毒婦の所業よりはマシの筈です。
「よかった。これで一安心ですね」
「はいっ」
シャルロットの柔らかく小ぶりな手を引くと、失礼、と断って少々強引に人の壁から脱出します。
「あらやだ、平民の子がいるわ」
耳朶を叩いた音。
背後から汚水のような擦っても取ることの出来ない、いじらしい言葉が被せられました。
繋いだシャルロットの手の指先に、くっと力が込められます。
それが不思議なことに、そして珍しいことに、私の心をどうしようもなくざわめかせたのでした。
エルマーナの白百合に告ぐ @TokimaMiyu
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