エルマーナの白百合に告ぐ
@TokimaMiyu
第1話 公爵の気まぐれ
黄金色の夕日が差す屋敷の廊下。
その奥に、目的の扉はありました。
「……イリスです」
「あぁ、イリスか。入れ」
帰ってきたのは無骨な男の声。
内心で気の弱い自分に活を入れ、思い切り扉を押すとすぐさま私は心を折られました。静かに後ろ手にドアを閉じますが、正直、ノブから手を離したくありません。
……最初に感じたのは強烈な香の匂いでした。
そして、その匂いすらも塗りつぶすように漂うのは、雄と雌の本能的な香り。
知らず、私はどろりとしたその空気に当てられて動悸が早くなってしまいます。
「まぁ、そう硬くならんでもいい。あぁ、なに、ソッチの方はいくらでも固くしてくれ」
ははは、と爛漫と響く男の豪勢な笑い声。
その主は、目の前の長大な真紅のソファに一糸纏わぬ姿で両腕両腿を開いて座っていました。
そこの中心に、猛々しく反り立つのは雄の性器。
ぬらりと卑しく照り返すソレに、左右に侍らせている絶世の美女二人が恍惚の表情で舌を忙しなく這わせています。
「取り敢えずそこに座るといい。話もあることだしな。──レイナ。イリスに茶を出してやれ」
「はい、旦那様」
すると、私のすぐ横で控えていた淑女然とした黒髪の侍女が慇懃に応えました。
レイナは小さい頃からよく知る女性です。元々はこの屋敷の主のお付だったようですが、今では私の専属メイドのようなもので、レイナには全てにおいて世話になっていました。
姉のようであり、母のようである彼女。
私が恋するひとでもあります。
そして最初に性の手解きをしてくれたのも、レイナでした。
しかし、その谷間にあるホクロの位置まで知っていてもなお、彼女は遠い存在。
私はレイナから視線を離すと、主と対峙しました。
「き、今日はなのお話でしょう父上」
私はむんとする匂いと刺激の強すぎる光景をテーブル1つ向こう側に見ながら、同じ長大なソファに腰掛けました。
すると、間髪を入れずに露出の多すぎる真紅のドレスに身を包んだ見知らぬ若い女性が隣に身を寄せて座ります。私はそれにドキマギしつつも父から視線を外しませんでした。
「お前は私の望み通り、可憐に育ってくれて嬉しいよ。喜ばしい限りだ。どんな男が見たってお前を娶りたいと、抱いてみたいと思うことだろう」
「あ、ありがとうございます」
淫乱の水音を聞きながらも向けられたその柔和な笑顔に、私は驚きを隠せませんでした。
こんな風に笑いかけてもらったことは、初めてだったからです。
そうして軽い放心状態に陥っていると、隣の美女が私のスカートを捲り股の間に指を這わせてきました。
「ひゃっ」
「あぁ、遠慮はいらないよイリス。人前で行為に及ぶのは恥ずかしいかもしれないが、それも慣れだ。お前ならすぐに女など次々と手篭めにしてしまうだろうよ。なにせ、私の│
小さすぎる下着からは、既に大きくなりすぎたその欲望の権化が半分以上顔を出していました。
それを、隣の美女が妖艶な笑と共に咥えます。
「あ! はあっ、だ、ダメです! そんな……汚いです!」
その私の声に、主は眉を上げました。
「なんだイリス、まだそんなことを言っているのか。おかしいな、もう何度か一番下の姉と交わっているだろう。……ほら、よく見ていな……さいっ」
すると、主の腹筋が大きく割れたかと思うと、黒々とした逸物が跳ね、それを咥えていた女性が熱い吐息を鼻から零しました。
その唇の隙間から溢れ出てきたのは真っ白に濁った精液。
それを、反対側の女性が残さず舐めとりました。
「ふぅ……。見たかイリス。アステライト家の男子たるもの、吐精に一切の躊躇も払うな」
その主の膝の上で豊満な胸を持つ女性が贅沢な肢体をしならせて喉を鳴らす姿に、全身の血液が一点に集中するのを感じます。
そして、くすりと下から聞こえた小さな微笑を最後に、私は淫靡な快楽に溺れそうになりました。
「わ、あっ、あ……っ」
「お待たせいたしましたイリス様」
その最中に、平然とティーセットをレイナが整えます。
そこでようやくレイナの存在を思い出して、私は顔に火の回る覚えをしました。
「レイナ! えっと、これは──!」
「なにを慌てていらすのですかイリス様。あなたも直に家督を継がれるお方。胸を張って下さいませ」
その、あまりに可憐な冷たい横顔に、私は胸が締め付けられるような想いでした。
かつて憧れ、そして今なお憧れる女性。
そのレイナに、この色々な意味で情けない姿を見られるのは恥ずかしい以上の感情が湧きません。
「レイナは、大丈夫……なの?」
「なにをもって大丈夫かと問われているのかは測りかねますが、もし仮に私が他人の性行為を見ることに抵抗があるのかどうかという問ならば、答えは『大丈夫』です」
「え……」
予想はしていたが、心ではどこか願ってはいなかった回答。
ここにいるどの女性よりも美しいレイナからは、ここにいるどの女性の中で唯一貞操を守っているレイナからはあまり聞きたくなかった答え。
しかし、その決心つかぬ心を責めたてるように、私に絡みつく女性はじゅっぽじゅっぽと音を立てながら男根を口で扱き上げます。その女性器よりも女性器らしい瑞々さと温かさに、いつしか私はその女性の頭に手を置きながらヨダレを垂らしていました。
「そもそも、家督を継ぐものとして──特によからぬ者達の目に一番に留まるアステライト家の直系として、種を蒔くことはどのような事務よりも優先される仕事なのです。この屋敷はやがてはイリス様のものになる。そうすれば、イリス様はその所有物のどこで
だから、私は悟りました。
これが、正しいのだと。
それが、自然なのだと。
「それに、あなた様はいつでも私の体を自由にしてもいいのですよ?」
その言葉は、麻薬のように脳内に周り、快感へと変わります。
そして。
「───うぅっ」
「んんっ、……んちゅっ」
レイナを見つめながら、別の女性の口内で果ててしましました。
「そうそう、その家督の話も絡んでいるんだがな」
「──……、はい。なんでしょう」
すると、主は片手で紅茶を啜り、逸物をゆらゆらと扱く女性の胸を反対の手で弄びながら口を開きました。
その光景を、女性の朱の引いた唇の中にどくどくと精を吐き出しながら白ばんだ頭で聞きます。
「イリス。お前、学校に行きなさい」
「……え?」
「早めの隠居もいいかと思ったんだがな、もう少しイリスに経験を積ませたいと考えた。それに、アステライト家の四女が、正式の長男であるとそろそろ周りに見せてやる必要がある。お前が美しく育つのはいいのだが、如何せん求婚する者が後を絶たなくなってしまってな」
学校とは、あの同年代の子供たちが学び舎に集まって共に過ごすという、あの学校でしょうか……?
たしかに貴族の子供なら学校に行くという選択肢は至極一般的ですが、同時に学校に行かずにその期間上の世代から仕事を学ぶという同じく一般的な選択肢を取らないということです。
三人の姉は学校に通っていたことは知っていました。
しかし、私は見た目や精神面でほとんど女性とはいえ、生物学に拠ればその性別は男性。
つまり長男である私は今の今まで後者になるだろうと思っていたのですが──。
すると他のメイドが一枚の写真を持ってくると、主はそれを受け取ります。そして眺めると、それを私に見えるようテーブルに滑らせました。
「知っているか?」
そこに居たのは、人形か何かと見紛うような、有り触れた美しさを超えた存在──その彼女は齢にして10にも満たないと思われましたが、顔立ちの整い具合だけでいったらレイナを超えるのではないのかという美貌を持った、一人の少女でした。
しかし、当然名前は知らず、首を横に振ります。
「彼女の名はフローナ・アース・マクロード。我が一家と同様、三大公爵の一つに名を連ねるマクロード家唯一の子であり、その絶世の優れた美しさ故に、ある道でも知らぬ者はいない人物だ。写真は随分昔のものだからあまり参考にはならないかもしれない。女は急に化けるからな。今、フォルトレイン学院の四年生になる頃だろう」
肩を震わせてしまいます。
フォルトレイン学院。
そこは、正に姉達が通っていた禁断の花園──。
「フォ、フォルトレイン学院は、男子禁制の女学院では」
「イリス、理解していることは言わなくていい」
「───っ」
つまり、女子と何ら変わらない外見を持つ私の特殊性を、存分に発揮できる場であると。
私は、主から渡された修練に眩暈がしてきそうです。
「その、フローナ嬢がどうされたのですか……?」
そして、私は次の言葉に気絶しなかった自分はなかなかに図太い精神をしているのではと、錯覚致しました。
「その女を、孕ませてこい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます