会員制魔界ショッピングモール「アニーマーケット」
マイク
第1話 空っぽの店内
魔界と呼ばれる異世界の一つ。
多くの会社が異世界に店を構える中。
大手流通会社カクヨムフーズもついに重い腰を上げた。
魔界に住んでいる人々、人間界から魔界に移住してきた人々に向けて人間界の商品を販売するショッピングモール「アニーマーケット」を開設することになったのだ。
「ここが私の新しいお店ね。
子どもみたいにかわいがってあげないと。」
そういう彼女こそ、このショッピングモールのオーナー。
アニー・フランソワ。
35歳バツ一。
仕事に熱心なあまり子育てを夫にまかせっきりで愛想をつかされて夫と離婚。
子どもたちは当然夫についていった。
家族より仕事を選んだキャリアウーマン。
なんて彼女は強がっている。
そんな彼女だがカクヨムフーズに就職して十数年。
商才を認められこの新しい施設のオーナーに任命されたのだ。
工事はおおよそ完了し、外観と内装はほぼ出来上がっている。
後はカクヨムフーズからの商品の搬入と、専門店の出店準備を待つのみである。
空っぽの店内を歩くアニー。
最大120店舗の専門店が集まることになる。
2階建ての中規模なショッピングモールで1階が食品売り場やレストランが中心のグルメフロア。
2階が服や靴などを売るファッションフロアになる予定である。
「アニー。
どうだい。
新しい店の中は。」
アニーと一緒に空っぽの店内を回る村上陸がアニーに感想を聞く。
「素敵じゃない。
ショッピングモールとしてはちょっと狭いかもしれないけど。」
「贅沢言うなよ。
自分の店を持てずに一生平社員で過ごすやつがほとんどなのにさ。」
「わかってるわよ。
これからが楽しみね。
ここでお金を稼いでどんどん魔界にお店を増やしていきたいわ。」
「期待してますぜ。マスター。」
「ふふ。任せて頂戴。」
新しい店を構えるにあたり、緊張は特に感じられない二人。
緊張よりも新しい挑戦にウキウキしているようにも見える。
「それでだ。
アニー。報告書の件だが。」
陸は事前にアニーに対して専門店の視察レポート。
およびカクヨムフーズブースの視察レポートを小説で提出するように要求している。
「報告書が必要なのはわかるけど。
なんで小説として書かないといけないのよ。」
「カクヨムフーズに報告するだけじゃなくって、社外の客に向けて情報を発信するためさ。
オーナーの書いたものだってわかったら箔が付くだろ?
他の店員が書くよりも客は安心して読めるし。」
「へぇ。
そういうものなのかしら。」
「理想は1つのテーマにつき三千字以上だが、二千字ぐらいがちょうどいいっていう人もいるからな。
ということで今やってる巡回作業を二千字以上で執筆。
頼んだぜ。」
「はーい。」
親に嫌な頼まれごとをされた子供のような声を出すアニー。
村上陸。
カクヨムフーズの社員で今は副店長。
アニーに日本語と日本の文化を教えたのは彼である。
そのせいか、店長と副店長という身分も関係なく互いにため口で話す。
(こんなもの書いてお客さん集まるのかしらね。)
そう思いつつ巡回後に自宅に帰り、肩こりに悩まされながらパソコンに向かって小説を入力するアニーである。
すでに人間界から魔界に引っ越しを完了している。
魔界のアイテム、魔具を自身のショッピングモールに取り入れるために実際に魔界に転移して生活を始めた。
ただ、魔具を直接販売することをアニー、そしてカクヨムフーズは考えていない。
あくまで人間界の商品を売るということにこだわっている。
それは自分の生まれ育った人間界の商品を魔界に売り込みたいという強いプライドから生じているものだ。
(古い人間なのかしらね。
やっぱり人間界の道具のほうが性に合ってるのよ。
それに育ってきた故郷の助けになりたいって誰でも思うじゃない。)
とアニーは思っているのだが、それはアニーだけだろうか。
人間界から仕入れてきたコーヒーを飲んで眠気と戦うアニー。
若いころは徹夜なんて余裕だったが最近は日付をまたぐと眠気がひどい。
この小説ではカクヨムフーズが開設した魔界にあるショッピングモール「アニーマーケット」の商売システムの紹介や中にある専門店の紹介を行う。
人間界の客層を広げるためにこの小説は人間界で読むにあたって、その国の言葉に合わせて自動翻訳される。
このページを読んでいる人々はきっと日本に住んでいる人々だろう。
また、この小説は時代を超えて過去の時代に対しても小説という形で読まれる仕組みになっている。
気の遠くなるような話だが、この小説が過去の人々の目に触れて、伝説となりその噂を聞いてこのアニーマーケットを訪れてくれればうれしい。
この「アニーマーケット」からカクヨムフーズの魔界出店ラッシュ、そして新たな魔界の人間界ブームが始まるわよ。
なんて売り文句をねじ込んでみるアニー。
数時間かけて二千字をようやく超えたところでアニーはやり終えた小さな達成感による心地よさと同時に急激な睡魔がやってきてパソコンデスクの上で眠りについてしまった。
パソコンの文字カウントツールは二千字以上と書いているが
二千字本当に超えたのだろうか。
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