第9話 いろいろある自販機

 アニーマーケット内には様々な自販機がある。

まずはどこにでもある飲料水の自販機。

つめたいジュースや温かいコーヒー、おしるこやコーンスープ、ゼリードリンクなどがビンや缶に詰められて売っている。


「のどが乾いたらつい自販機で飲み物買っちまうよな。」


というアニーマーケット副店長の陸。


「私も。

 自販機でコーヒーと紅茶買ったりするわ。」


アニーも自販機の常連客である。


「食料品売り場に行けば安いんだけどな。

 飲み物のためにいちいちレジで並ぶの嫌なんだよ。

 高くてもついつい買っちまうな。」


「ところで陸。

 自動販売機って言わずに自販機って言いだしたのっていつ頃かしら。」


「さあな。

 ずっと前からじゃねぇか。」


二人の疑問はともかくとして、

アニーマーケット内には他にもいろいろな自販機があるので紹介する。


 こちらも飲料水の自販機ではあるが、カップにコーヒーが注がれるタイプだ。

コーヒーの種類を選んでからコーヒーの量、砂糖の量、クリームの量をボタンで選択する。

選択によってブラックコーヒーにしたり甘いコーヒーにしたりすることが可能だ。

自販機の中にはコーヒーミルが内蔵されていて、一回づつ丁寧に挽いてくれる。


「あぁ、これこれ。

 やっぱり缶コーヒーよりもこっちのほうがいいわ。

 挽き立てでコーヒーの香りも出るし、

 カップのほうが飲みやすいのよね。」


とオーナーのアニーに好評のこの自販機。

缶やビンの自販機よりも数は少ない上、すぐ出てくる普通の自販機より時間がかかるのが欠点だが、挽きたてのコーヒーが味わえるということでお手洗い前の自販機コーナーで徐々に勢力を伸ばしている。


 次に多いのがアイスの自販機。

棒付きアイス、モナカアイス、カップアイス、パック入りアイス等様々なアイスが売っている。


「悔しいんだけど小腹がすいたときとかに食べたくなるのよね。」


その多くの自販機はお金を入れて番号を入力してボタンを押すとお目当てのアイスが一瞬でストンと下の扉から出てくるものであるが、アニーマーケットには一台だけ変わったものが存在する。


 お金を入れて買いたいアイスの番号を入力してボタンを押すところまでは同じであるが、そのアイスの取り方が面白い。

まず、アイスが収納されているクーラーボックスが開く。

次に金属の棒状のものが目当てのアイスが入っている箇所まで移動する。

目当てのアイスがあるところまでくると、なんとクレーンゲームのように棒が下まで降りてきてアイスを吸引して持ち上げるのだ。

後は取っ手口までアイスが移動されてストンと下の扉から出てくる。


「懐かしいわね。

 アメリカにいたころを思い出すわ。」


「面白いよなこれ。

 知り合いに頼んで仕入れてきたかいがあったぜ。」


ちなみにこの自販機。

たまに吸引に失敗してアイスが取れない時がある。

その際はあきらめて棒が元の位置に戻ってしまう。

ただし、クレーンゲームとは違いお金は返金される。

この動作が見たくてアニーマーケットに来る自販機マニアも少なからず存在する。


 次にホットドッグやハンバーガー、お好み焼きといったホットスナックを販売している自販機。

お金を入れて欲しい商品のボタンを押すと内蔵されている電子レンジが起動して商品を温める。

温め終わったら扉が開いて商品を手に入れることができる仕組みだ。

最近は安くてうまいホットスナックが並ぶコンビニに押されて人間界では数が減ってきているが、ノスタルジックな気分を求めて買いに来る自販機マニアがこれを求めてアニーマーケットにやってくる。


「そう考えてみるとコンビニって便利よね。」


「そりゃあな。

 食料とかもそうだが、

 今では宅配便とか公共料金の支払いとか。

 何でもありだし。」


陸は自販機マニアで珍しい自販機を見つけるとすぐに導入したくなるのだ。

おかげでアニーマーケットにはそこらへんにいろんな自販機が置かれている。


 これも昔は有名だった。

カップ麺自販機。

まずカップ麺を買って、内蔵された給湯器を使ってセルフでお湯を入れる自販機である。

なのだが、なんとアニーマーケットの店員のドワーフが改良して自動で勝手にふたを開けてお湯を入れてくれるおまかせ機能もついている。


「おまかせは便利だけど俺は自分で淹れたいよな。」


という理由でノスタルジックな気分を求めるものはセルフで入れる。


 これも一昔前は動物園や遊園地に必ずあった自販機。

カメラ自販機。

1フィルムだけの使い捨てのカメラが売られている。

人間界ではスマホ等のカメラ機能付き携帯が当たり前になって廃れてしまったが、魔界で人間界と同じスマホを使おうとすると海外料金となり割高になってしまう。

そこでこの使い捨てのカメラ自販機を置いた所。

思い出を残したい人間や人間に擬態した魔物たちに人気となっている。


 他にもいろいろな自販機があるが、最後にハンコの自販機を紹介しよう。

名前を入力して、書体、文字の太さ、配置を選択する。

オプションで内蔵されている簡単なイラストなども入れられる。

入力途中にハンコの印刷プレビューが見られるため初めてでも失敗せずに安心だ。

彫刻にはだいたい5分から10分ぐらいかかる。

難しい漢字や文字数が多い場合はさらに時間がかかったりする。

難しい常用漢字以外の人名用漢字も入力できるため、普通のハンコ屋にはない名前でも作ることができる。


 ちなみに、アニーマーケット内の自販機はアニーカードをタッチパネルでタッチしないと買うことができない仕組みになっている。

これは当然、客の行動履歴を取得するためのものだ。

アニーカードをタッチすると商品が選べるようになる。


「別にここまでしなくてもいいと思うけどな。」


と、呆れ顔の陸。


「だめよ。

 自販機を利用する客も多いんだから。

 客の行動履歴を提供できるのが、アニーマーケットの強みでしょ?」


「そりゃそうだけどよ……。」


売り上げが赤字になった自販機はすぐに撤去される。

生き残りをかけて専門店同士の熾烈なライバル争いが日々行われているアニーマーケット。

自販機ですら例外ではない。

本当に必要とされる自販機だけが残り、使われない自販機は撤去されてしまうのだ。


 自販機マニアの諸君。

人間界で見つからない自販機を探す時は是非アニーマーケットに。

どうかあなたが求める自販機が撤去される前に。






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