第6話 熾烈な専門店同士のサバイバル
トップパトロール。
アニーマーケット内の店が正しく商売しているかを調べる抜き打ち調査。
特に専門店の監視に力を入れている。
アニーと陸、そのほか四人の重鎮がアバター機能を使って客に扮して実際に買い物を行い調査する。
審査ポイントは接客の様子、店内の安全性、そして一番のポイントはサービスが客に対して適切に行われているかである。
一番多い不正がアニーカードを使わせずにサービスを無断で提供しているケース。
アニーマーケットでは特例で許可を受けたもの以外はすべてアニーカードを客に提示させて行う。
これは店が客に対して一方的にサービスを提供するということがないようにするためである。
これを破ることは客の行動履歴を売りにしたサービスを提供しているアニーマーケットにとっては死活問題となりかねないからだ。
これはアニーがとある雑貨屋さんを調査したときのこと。
「いらっしゃいませ。」
雑貨屋に入ると品のいい女性店員の声が聞こえる。
「どうぞ」
と店内に入って変装したアニーに手渡されたのはかわいいキャラクターの絵が入ったマグネットだった。
「あの。
アニーカードは見せなくていいんですか。」
「いいですよ。
めんどくさいだけですから。
あんなもの。
フフフ。」
「あはは。
たしかにそうですね。」
(あーあ。
この店おしゃれで気に入ってたのにショックだわ。)
アニーは心の中で落胆する。
このお店ではウエルカムサービスを提供するとき、アニーカードの提示を省いていた。
些細なことだと思うかもしれないが、これは客の意思表示の証拠というアニーカードの存在意義を無視したことになる。
店内の見た目がいくらよくてもこれはだめである。
この店に後日アニーの雷が落ちたことが言うまでもない。
このようなお店には幹部からの叱責と共に制裁が下る。
制裁の内容がどのようなものかは後程説明する。
アニーマーケットでは月初めにお店の業績ランキングを発表する。
業績ランキングはただの売上金額のランキングではない。
業績ポイントはまず売り上げと貸店舗のサイズによって決まる賃料を含めた店の出費額を差し引いたものが基本となる。
そこに評価する人物。
アニーシックスの評価が高い店や客からの評価が高い店には加算ボーナス。
逆にアニーシックスの評価が低い店や客からの評価が低い店には減点が容赦なく実施される。
先ほどの制裁の話に戻ると、アニーカードを使用させずにサービスを提供した場合には貸店舗の賃料に制裁金が上乗せされる。
つまり上乗せされた分評価が減点されてしまうのだ。
まれなケースだが、小規模店舗が大規模店舗並みの賃料に膨れ上がったケースもある。
アニーマーケットの専門店は最大120店舗。
その中で業績ランキングの順位が101位以下になってしまうと赤点をつけられてしまう。
また、お店の売り上げがお店の維持費を下回っていた場合、つまり基本ポイントがマイナスの場合にも赤点をつけられてしまう。
この赤点が1年以内に3回ついてしまうとそのお店はどんな理由があろうとアニーマーケットから強制退去をさせられてしまう。
売り上げの締め日は毎月20日。
例えば4月の売り上げの集計期間は3月21日から4月20日までとなる。
この計算ルールのため店を開いた最初の一か月はこの業績ランキングの対象外となる。
二か月目からはこの熾烈なサバイバルレースにどの店も強制的に参加しなくてはならない。
赤点がついてしまうケースは他にもある。
店舗の無断拡張、特に魔法の空間バーチャルスペースの空間が少しでも店舗以上のサイズを超えていた場合、制裁金と赤点の両方がつけられてしまう。
店舗の過剰拡大は魔族たちから供給されている魔力を買い取って利用しているアニーマーケットの運営を圧迫してしまうからである。
だが、一番厳しいルールと思われるのは月末の賃料の滞納があれば即座に強制退去させられる点だろうか。
聞くだけで厳しさに身が引き締まる思いになるが、この厳しい熾烈な専門店同士のサバイバルによってアニーマーケットの人気は守られている。
人気があり、客から支持を得ている店は生き残り、それ以外のお店は店をたたむ。
アニーマーケット内の専門店同士は互いの生き残りを競うライバル同士なのだ。
この競い合いにより良質なサービスが客に提供されていく。
本当に客に必要とされている店だけ存続していくのだ。
「本当はもっとお店が増えればいいなと思ってるんだけどね。」
とため息を漏らすアニー。
本当は今すぐにでもアニーマーケットを拡大したい。
「仕方ないさ。
ショッピングモール全体の維持費は馬鹿にならない。
俺たちには業績を上げられない店を続けさせる余裕はないんだ。」
とアニーをなだめる陸。
「業績を上げないとカクヨムフーズから私たちもグループから切られちゃうからね。
雇われオーナーも案外つらいわ。」
カクヨムフーズも不正な運営を防ぐため月に一度アニーたちを視察しに来る。
業績が悪くなればアニーたちの職も危うい。
オーナーの身を切られれば店舗拡大の案など無意味になってしまう。
業績を上げるためには無暗な店舗拡大はお預けである。
夢のあるショッピングモールにしたいのになんとも夢のない話になってしまった。
この小説を見ている人はこの厳しいルールをどう思うだろうか。
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