第2話 会員制ショッピングモール

 アニーマーケットが他のショッピングモールと大きく違うところはズバリ。

「会員制のマーケット」というところ。


 初回は無料であるが2回目以降は基本的に会員にならなければ入れない。

一年会員だと日本円で一人一万円。一月会員だと千円である。


 しかし、会費をとっている分。

会費で賄われているサービスは非常に充実している。


 まず客はアニーマーケットの入口で機械を通じて指紋認証と顔認証を行う。

認証が終わった後、機械からは魔法のカード。「アニーカード」が出てくる。

このアニーカードを使ってアニーマーケット内では様々なサービスを行う。


 その代表的なサービスが試食サービス。

カクヨムフーズという名もあって。そのグループに属するアニーマーケットも、食品の販売に一番力を入れている。

たとえばアニーマーケット内のカクヨムフーズの食品コーナーの場合。

試食コーナーには試食品が多く並んでいる。

試食品といえばたいていどこもひとかけらでおしまい。

コーヒーなどの飲み物であれば多くても紙コップ半分程度だろう。

しかし、カクヨムフーズはちがう。

お弁当のおかずカップに並々と入っている。

みそ汁やコーヒーであれば紙コップにタプタプと注がれている。


 しかも種類が違えば無制限に試食が可能である。

たとえば焼肉であれば、1日の中で肩ロース、タン、ハラミを1種類づつおかずカップに入ったものを食べることができる。

日が変われば再度同じ試食を手に取ることだって可能だ。


 客の中には試食コーナーのおかずを集めて、自前で持ってきたお弁当箱に詰めるという強者もいる。

試食コーナーにはご飯の試食コーナーもあるため、おかずカップだらけのヴィジュアルになることを我慢すれば立派なランチの完成となってしまうのだ。

さらにその気になれば飲み物やみそ汁やスープもつけることができる。


 ただし、試食の際には注意することがある。

それは試食をする際には試食品を受け取る前にアニーカードを

試食コーナーの店員に渡して試食するものを伝える必要がある。

人気の商品の試食コーナーは行列になっており、

複数の種類の試食がしたい場合は行列に再度並び直しである。

もちろん人気商品の試食はすぐに品切れになってしまうケースもある。


 客の中には試食のシステムが面倒というクレームがたびたびわいてくるが。

あくまで試食は商売の一環であるため試食システムを改定することは考えていない。

多少面倒な試食であるが、そこで試食をあきらめればその商品はそこまでの価値しかないということ。

それがオーナーであるアニーの考えだからだ。

試食された商品の情報は本部に送られ、試食の多いものは増産の検討。

試食が少ないものは減産。あるいは商品の見直し、廃止が検討される。




 専門店に入る際は入口でアニーカードをかざして入店する必要がある。

これは客が入店して商品を見たい意思がきちんとあることを確認するためだ。

この手間を惜しむようであればその店にはその程度の魅力しかないということ。

専門店を出る時はカードをかざす必要はなくそのまま出ることができる。

この入店数と実際に商品を買っていった人数を見ることにより、店自体に興味を持っている人と商品を買う人とのギャップを正確に把握することができる。

客は多少の手間をかけて入店してきてくれているのだから、そのギャップが大きい場合商品の価格や質を見直せば大幅に売り上げを伸ばせる可能性があることを示す。


 店舗によってはウエルカムサービスとして記念の缶バッジ、メダル等をくれる所もある。場所によっては先着でシャンプー、アロマオイルの入った瓶、パン一斤を配る場所も。ここでそのサービスを受けるために必要なのがアニーカードである。

専門店の無料のサービスであっても手間を惜しむようなものであればいらないと考えるのがアニーの考え。


 アニーマーケット内のお店で買い物をする場合はもちろん支払い方法に関わらず

アニーカードが必要になる。

セルフレジの場合は支払いの前にレジの機械にアニーカードをタッチする。

有人レジの場合は支払い時にアニーカードを定員に手渡す必要がある。


 最後に入り口でもらったアニーカードを出口で返却する。

返却しないと出口から出ることができない仕組みになっている。

紛失した場合は再発行手数料がかかるのでご注意を。


 数が多いのですべての有力なサービスを一度に紹介することはできないが、他にも魅力的なサービスがあるので気が向いたときに一説として紹介したい。

興味のある方は是非アニーマーケットへ。




 (正直、自前のお弁当箱をもってきて試食品を詰めるのはどうかと思うけどね。)

と苦笑いを浮かべながら文章をまとめるアニー。


 (でもいいのよ。

無料であれど手間を取りながら試食してくれるっていうのはその商品に少なからず何か魅力があるってこと。

私たち店員が一生懸命考えたものでも、お客が実際に食べてくれるかどうかはわからないのよね。)


 いくらアンケートを取ったとしても素直に答えてくれるとは限らない。

無料となれば客はその本性を表す。

そうして集められたデータこそ本当の客の声だとアニーは考えているのだ。

(人間不信なのかもね。

 でも本当に大事な情報ほど。

 人間はしゃべってくれないものだし。)


 アニーカードを施設内で管理しているのは客がカードを管理しなくてもよくする点。

もう一つはアニーマーケット外に客の行動履歴が漏れないようにするためである。

セキュリティの問題というだけではなく、客の生のデータが取れるということはカクヨムフーズはもちろんのこと、アニーマーケットに店を構える専門店にとっても非常に魅力的なものである。

外部に漏れてしまえばせっかく手間をかけて取得したデータも台無しになってしまう。


 客が発する音なき声を集めること。

そうして集められたデータこそアニーマーケットにとって最大の武器なのだ。

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