第3話 店内だけのもう一つの体とお部屋 アバター機能とマイルーム機能

 買い物中に少し休憩したいと思った人は少なくないだろう。

そんなときほど椅子や机が置かれた休憩スペースは混雑していて使えない。


 ご安心を。

アニーマーケットには共有の休憩スペースだけではなく、店内限定のあなた限定の部屋、マイルームが用意されている。


 アニーマーケットの入口、お手洗い前の休憩所や階段やエレベーターの前にある家のマークが書かれたパネルにアニーカードをタッチすると貴方の体がマイルームへ転送される。

六畳一間ほどのプライベートエリアはあなただけのために用意された魔法の空間。

部屋は何種類かあり用途に応じてチェンジすることが可能だ。


 たとえば食事がしたいときや買ってきた本を読みたいときは壁に取り付けられている椅子とテーブルが置かれた洋室のイラストのパネルを、ゆっくり寝たいときは布団やベッドのイラストのパネルをタッチすれば、その用途に応じた部屋にチェンジできる。

ただし、魔法で用意された家具は固定されており動かすことはできない。

部屋から出たいときはアニーカードを出口のドアにタッチしよう。

元居た転移元に転送される。

注意点としては魔法で用意された家具以外の一定以上の大きさの固定物、つまり落とし物があると部屋から出ることができない。

部屋に物を捨てることはできない仕組みになっている。

部屋を出た後は30分ほど魔法空間の自動クリーニングシステムが作動する。

その間はマイルームを利用できないので注意してほしい。


 アニーマーケットに来るのは異世界に移住した人間、もしくは旅行でやってきた人間だけではない。

魔界に住む魔物たちもアニーマーケットにとって大事なお客様である。

しかし多くの人間にとって魔物はなじみのない存在であり、人によっては近くにいるだけで恐怖を感じる存在である。

そこでアニーマーケットでは魔物たちに対してアバターという魔法の人形を貸し出している。


 ベッドか布団が出されている状態で、マイルームにあるタッチパネルで好きな姿を選択。

つまりキャラメイクをして決定ボタンを押すと、魔法の人形が召喚されて、意識が人形のほうに転移する。

本体のほうは睡眠状態となりベッドや布団で寝かされた状態になる。


 魔物は人間の姿となり、アニーマーケット内で自由に買い物が可能だ。

アバターを使用している場合、マイルームに戻ると自動で意識が本体のほうへ戻る。

魔物だけではなく、買い物の時だけ気分を変えたい人間もよくアバターサービスを利用する。


 このサービスを一番利用しているのはオーナーであるアニーたちだろう。

アニーと副社長の陸、その次に偉い役職の四人。

通称アニーシックスは1日1店舗をノルマとして、毎日専門店を抜き打ちチェックする。

上層部が変装していると知らずに油断して雷を落とされる店も多い。

この取り組みはトップパトロールといわれ、専門店にとって恐怖のイベントになっている。

この取り組みの詳細はまた別の機会に。


 残念ながら本人確認をする機械の都合上、人間に近い亜人以外の魔物には入店をお断りしている。

もし亜人以外の方がショッピングを希望する場合は知り合いの人間や亜人の方に買い物を代わりに頼んでほしい。


 魔物の客の中にびっくりする客がいる。

魔界の長、魔王様だ。


「余も人間の生活というのに興味があってな。」


といいながら平凡な格好の人間に変装する魔王様。

変装する前、アニーマーケットの入口で


「あ、魔王様だ!」


と子供に言われても、


「げ!?魔王様!?」


と他の魔物たちに恐れられ絶叫されてもスルー。

流石魔王様。


「本当にあの時は心臓が飛び出るかと思ったわよ。」


「そりゃあな。」


 店の中でナンバー1アニーとナンバー2陸であっても、

さすがの魔王様には頭を下げざる負えない。


「たまに気を抜いたときぐらいに来るのよね。」


「あんなすげえのと毎日顔を突き合わせている魔物たちは半端ねぇよな。」


と魔王様に関する話題は絶えない。

が、魔王様もあくまでアニーマーケットではお客様。

これ以上の話は慎むことにする。


 たまに変化の術で人間に自前で変装して来店する魔物もいる。

しかし、変化の術が途中で切れて客の人間に驚かれているシーンもこれまたたまに見かける。

変装するなら最後まで変装してほしい。

ちなみにマイルームは閉店30分前に閉鎖されてしまう。

アニーマーケットの営業時間は午前10時から午後9時まで。

閉店時間が他のモールより少し早いと思った方。

実に目ざとい。この話も別の機会に書こうと思う。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る