僕はあと何回、彼らに会えるんだろう

 

 休みが終わり地元を離れる時、母は必ず僕を見送る。「玄関で良い」と言っているのに、最寄りの駅のホームまでついて来る。少し恥ずかしく、簡単に「またね」とだけ返す。

 

 大きなキャリーケースを担いで、ホームへの階段をのぼりながら振り返ると、いつも母は僕の視界から消えるまで手を振っていた。


 その内、母は駅までついて来れなくなり、マンションの廊下から駅のホームにいる僕を見送るようになった。やはりまだ恥ずかしかったので、わざわざ廊下が見えるホームの端まで移動しなかった。


 電車が動き出す。

 動き出す電車の窓の向こうに、渡り廊下でキョロキョロと人影を探す母が目に入った。ドアの前に立っていたけれど、母は僕を見つけられなかったみたいだ。手を振ることも無く、母は視界から消えていった。


 その時、体細胞が死んでいくような強烈な後悔に締め付けられた。


 どうして、手を振ってあげなかったんだろう。起き上がるだけで怠い身体を押して、廊下で息子ぼくの出発を見送る母に。僕の姿を見つけたら、見えなくなるまで手を振り続けてくれていた母に。少しでも長くその目に留めようとしているだけなのに。


 ○


 それから、ホームの端で渡り廊下にいる母に手を振るようにした。電車に乗り、母のからいつも考える。


 ――僕はあと何回、彼らに会えるんだろう。


 そんなに多くはないかもしれない。

 それでも、そんなに早くはないかもしれない。


 いつまでもまとまらない考えが頭の中をぐるぐると渦巻いていた。そして、寮のお世辞にも高級とは言えないマットレスの上に放り出された時、やっとたどり着いた。


 これが最後なんだと。

 

 彼らがいついなくなっても、後悔の無いように。

 僕の人生が今終わっても、後悔の無いように。


 そう、思えるようになった。


 ○

 

 アメリカ行きが決まり、出国直前のある朝。午前ももう終わるという頃合いに携帯が震えた。画面には姉の名前が表示されている。珍しいなぁ。


「もしもし、どうしたん?」








「どうしよう、お父さんが死んじゃった」

 それは、父の訃報を知らせる電話だった。




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