恋への道

第1話;俺は決して現実を見ない

圭一の部屋はアニメのポスターやフィギュアが多少ながらあり一番多いのはライトノベル。通称『ラノベ』がぎっしり入った本棚が壁に三つぐらい並んでいる。


そして、本棚に収まらないのか部屋のあちこちにもラノベが転がっていて他にも栄養ドリンクやコンビニ弁当のゴミが転がっていてとても綺麗とは言えない部屋だ。


ピピピッッッ―――――


スマホの目覚ましが鳴り。机の上に頭だけを乗せて寝ている圭一は目覚ましの音が聞こえてないのかぐっすりと寝ていた。


ピピピッッッ――――ピピピッッッ――――


「うるさいな」


不機嫌な声で目覚ましを止めて。溜め息をついてから重たい身体を座っていた椅子から立ち上がらせた。


うーん! と言いながら身体を伸ばして壁に掛けてある制服をとってそこら辺に着ていた部屋着を投げてささっと制服を着てから洗面所に向かった。


「うわぁ、またクマ出来てる」


鏡で自分の顔を見ると自分でも酷いと思うぐらいのクマがあった。


三日徹夜は正直ヤバかった。途中から殆ど記憶がないし、多分それぐらい切羽詰まっていたんだと思う。

それで今から学校か。ほんっと三次元は理不尽だ。


学校も学校だ。単位がないと卒業出来ないとか、オタクの俺には厳しい所過ぎる。

もう一度鏡を見て目の下のクマを見て溜め息をついてから部屋の方に戻った。


部屋は1Kのアパートでトイレと風呂が付いてたし、学校からも歩いて行ける距離だったからここにした。


学校の準備を整えたら玄関に向かい学校用の靴を履いてからドアノブに手を掛けて重たい──凄く重たく感じるドアを開けた。

「うっ。眩しい」


眩しい日差しはずっと引きこもっていた俺にはキツい光りだ。


俺の部屋は一階の101号室だから出れば直ぐに下に行く石段がある。このアパートに住んでるのは俺以外に三人居る。女性が二人に男性が一人居る。男性とはかなり仲は良いと俺は思っている。女性の方は………………遠慮したい。何と言うかあれは生理的に無理。俺にはあの人達と付き合いをするなんて無理だ。


俺は肩を落としながら学校に向かう。行く道にコンビニがあるぐらいで他は何も無いただただ住宅街が続いている。


(またか………)


後ろから誰かが付いて来ている気配がして後ろを振り向くが誰も居ない。


自意識過剰なのなのかもしれないが、最近、ストーカーにあってるかもしれない。

去年の五月ぐらいからずっと毎日誰かに追いかけられている気配がして振り向くが誰も居ないことが度々ある。

でも、これは俺の自意識過剰の考えだ。


俺みたいなオタク野郎をストーカーするなんてのがまずありえん。

見た目が太ってるとかよりバイトとかで身体は鍛えられているのでしっかりとした方だと思う。それでも見た目は普通だから好まれることは絶対にありえない。


それに俺は学校に登校する度にキャラグッズであるヘッドホンしてたりイヤホンをしたり、とたまにラノベを読みながらも行くから近所の人達なら俺のことをオタクと呼ぶだろう。


それに俺は誰かに好かれたい行動なんてしたことがないんだから。

どっちかと言うと嫌われる方をやってるから俺を好きになる奴なんて居ない。


だから、これは俺の自意識過剰の考えなのだ。


それでも気配がすると思うと後ろを振り向いてしまうのだが――――


         ☆


学校に着くと特に寄る所は無いのでそのまま自分の教室に向かう。

とぼとぼ歩いて行き。ヘッドホン越しからも聞こえる周りの声はとてもうるさく思えた。


教室に着くと真っ先に自分の席に座り鞄を机の横に掛けてからラノベを取り出して読む。


この時間が俺にとって一番の至福の時だ。


これは当たり前であるが俺が持っているラノベは全て自分好みの物ばかりである。


まだまだ未発達の身体で髪は肩まで伸ばしたセミロングのヒロインが一番の好みである。

胸はAからBぐらいの女の子で背は百五十九センチ以下が一番のベストである。


まぁ、大抵は胸はBで髪は勿論セミロングで背は百四十八でなおかつ年は十四歳の子が良い。


種類で行くなら異世界物は勿論。他に好きと言ったら現実恋愛とか。まぁ、大抵何でも大丈夫だが先程説明したヒロインが居ないなら多分読まない。


これを聞いたら俺のことをロリコン扱いして来る奴は多数居たが、人の好みは人それぞれなのでどうでも良かった。


そして、教室は何時もに比べてもかなりうるさい。もう五月で段々暑くなって来ているのにそれでも騒ぐこいつらはなんなんだ。


別に気が散る程のうるささでも無いと言うか馴れて今では殆どどうでも良いと思うが、うるさいのには変わりはない。


こう言った時には友達と話せば良いだろうと言ってくる奴も居るがおあいにくさまそんな存在は居ない。


と言うか、作らない。学校生活においては一人で十分。作ってそいつらと遊びに行き原稿が作れなかったらヤバいし。


だから、初日からバカなことをしてやった。


まず最初に沢山のラノベを持ってきて自分の机の上に置いた。それに興味を示してきたクラスメイトは少なからず居たが全部追っ払った。そして、次は一年生とかクラス替えがあった時にやる自己紹介のところで言ってやった。


「眉桷圭一だ。好きなライトノベルは「月花は散る」次に好きなイラストレーターは「かも汁ネギ先生」だ。そして、俺は三次元が嫌いだ」


それだけを言って俺は席に座った。


案の定、俺に話掛けて来る奴は居なくなった。そして俺は平和に高校一年生生活は送れた。今年から二年でどのようになってくるかは分からないが多分余り変わらない平和な学校生活になると思う。


だが、三次元は時として最悪を招いて来る。


「おい。お前が眉桷か?」


鍛え抜かれた強靭な肉体を表す程の筋肉をした目付きの悪い男が机をバンっと叩いてきた。

多少ながらもそれにびっくりして身体ビクッと反応する。


「まぁ、そうですけど」


一応声を掛けて来たのでヘッドホンは取って自分より頭一つぐらい背が高い大男を見上げた。


(うわぁ、こわ。と言うかどうやったらそんな肉体が手に入るか聞きたいものだ)


見上げた筋肉に感心しつつ、大男の話を聞いた。


「そこに書かれている場所に今日来い」


そう言って一通の封筒を渡してきた。


色は水色で特に変わった装飾も無い普通の封筒だ。


「ふむ。俺そんなに強くも無いんで行きたくないんですけど」

「ふん。来れば分かる」


えぇ、あの人柔道部の主将だろ。絶対にこれは決闘の申し出だ。

だから、断ったのに………………断れなかった。

大男は帰って行ってしまい俺は結局最後まで断れなかった。


柔道部の主将水野 源二みずの げんじ。高校一年にして全国大会二位の成績を収めた柔道界の新たな星とかなんとかニュースで見た気がする。

そして、高校二年になったら今度は二位では無く一位を取った本当の柔道界の星となった奴だ。


そんな奴に放課後呼び出しをくらえば誰だって決闘の申し込みだと思う。

それに行かなかったらどうなるか想像するだけで嫌になる。


はぁ、遺書でも書いておくか―――


そんな事を考えていたらあっという間に時間は過ぎて行き。


「おーい! 眉桷君~! 明日の顔が楽しみだね~!」


放課後になるとそんな事で俺を煽ってくる奴が数人居てクラスの奴らはギャーギャーうるさく笑うし。廊下に出ればもう水野先輩に呼ばれたことが広まってるのかひそひそ、と俺を見て話をしてる奴らがやたらと目立つ。


俺だって、行きたくない。だけど、行かなかった時の事を考えるとゾッとして行かなければと考えてしまう。

いっそのこと、警察に駆け込むか。いや、それはそれで恨みを買いそうだから…………。


結局打つて無しで校門まで行き。


「ん。えっと、翠露公園に来て下さい?」


封筒を開けて果たし状の方を確認したら校舎裏とか柔道部の部室とかでは無く大きな楠木がある翠露公園だと?


「あ、これ………」


俺は凄く嫌な予感がして急いで公園に向かった。


「ハァハァ………。キミがこれ書いたの?」


背は俺の顎ぐらいの高さで髪は肩の下ぐらいで俺が好きな黒髪セミロングだ。前の方で髪を三つ編みしている。

着てるのはセーラー服で見た目からは中学生に見える。


胸は………………服の上からならBかCに見える。


「あ、はい。その、えっと、勇気出なくて、お兄ちゃんに頼んでしまいました」


頬を赤くして言う多分中学生。


うん、分かってた。あの綺麗な字とかはあんな大男には書けない。そして、ストレート過ぎる文章もあったから直ぐに理解して走ってきたんだ。


眉桷圭一さんが好きです――――


「あの、手紙を読んでくれたのなら理解して貰ってると思いますが………その、私は貴方が好きです。ですから、その、お付き合いをお願いしたいんです!」


まぁ、普通ならオッケーはするよな。


見た目からはやはり三次元の美少女だ。こんなけ可愛いければ男な寄って来そうだがあの兄を持ってるから近寄り難いんだろうな。


俺は答えは決まってる。だから、急いで来たんだ。


「断る。俺は三次元より二次元を好む所存だ。諦めろ」

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