第8話;そんな事はもう辞めろ

「おい、お前。優花を家政婦として雇うとはどういうことだ」


あぁ、またか。またなのか。この兄さんも飽きないな。

またしても源二先輩に何時もの場所で壁ドンをされて鋭い眼力で睨まれていた。


「それは、ですね。先輩? 一度考えてみて下さい。普通キモオタの時点で女子とは逃げて行くものですが、優花さんは全く嫌がることなく俺に関わって来ます。ですから、如何に俺が駄目人間なのか知らしめる為に家政婦として雇ったんです。それに給料も払いますし。これで優花さんも………!?」


ドンッ!っとが顔の横で鳴り、源二先輩の大きな拳が壁にめり込んでいた。


(ひぇぇぇ!? こわ! 一瞬死んだのかと思った………)


「無理だな。優花は世話好きだ。逆に駄目と知ったら更に好きになるかもしれん」


あら、良く妹ことを分かっているな。このシスコン兄貴……………


「あの、もし俺が優花さんと付き合いたいと言ったらどうしますか?」

「きさまぁぁぁぁぁ! 天使である優花を独占する気かぁぁ! 優花は俺の天使だ! お前なんぞにやらんぞぉぉぉ!」


怖い怖い怖い!? いきなり叫び出して殺菌丸出しで拳を構えて来るのはいつ殴られてもおかしくないぐらだ。


「落ち着いて下さい! 例え話ですから! え、あ、ちょ!?」


落ち着かせようとしたらもう手遅れで金属バット、いや、もうそれ以上の鋼鉄で殴られたぐらい強い拳で頬をおもいっきり殴られた俺は勢い良く壁と激突して気絶してしまった。


クソ野郎………例え話って言っただろが――――


           ☆


スベスベしていてマシュマロみたいに柔らかいものに頭が乗っていて良い匂いもする。


そんな不思議感覚に流石に気づいて勢い良く身体を上げると誰かとデコをぶつけた。


「痛い。圭一、大丈夫?」

「え。リリス? いや、まぁ………!?」


意識がハッキリしてきたら頬から来るジンジンとした痛みに気づいて「いてぇぇぇ!」っと思わず叫んでしまった。



「いや、まぁ、ありがとう」


痛がる俺を介抱しながらリリスは保健室に連れてきてくれて氷袋まで作ってくれた。それでもジンジンする殴られた場所は相当なものだと思う。


「圭一、その頬どうしたの?」

「まぁ、何でもないから」


別に言っても良いがなんかこいつに言うのは嫌だから言わない。


「そう。言いたくないなら良いけど、好きな人ぐらい心配させないよね」


そう言ってデコにデコぴんをしてきたリリス。不服そうな顔で保健室を出て行った。


「いてぇじゃねーか」


俺はデコを抑えながらそんな文句をたれた。


         ☆


ふと、思ったこと。家に帰って来ると毎回俺より早くに優花が居る。そして、毎回私服だ。別におかしくは無いのだが、ただ学校終わるの早いなって何時も思ってしまう。


「優花、学校はちゃんと行ってるか?」

「え。はい、行ってますけど?」


一応心配になり聞いてみたが行ってるなら安心だな。まぁ、たまに学校サボる俺が言うのも変だけど。


優花は不思議そうに首を傾げて居たが、行っているなら安心してそれ以上は何も言うことはなかった。


だとすると、どうやって何時も俺より早く来れるんだ?

優花が空と同じ学校なら一駅隣の街に住んでるってことになる。それで俺より早くここに来てエプロン姿で出迎えるなんて出来ないはず。


「優花、一つ気になったんだが。お前どうやって俺より早くここに来れてるんだ?」


そう言うと、優花の身体ビクッと反応して動きが止まった。

俺は疑問に思い優花の顔を覗くと、身体ふるふる震わせて冷や汗が出ていて焦りの顔になっていた。


どんだけ、動揺してんだよ……………


優花の焦りぐわいからいくと何かありそうと言うかあるな、これ。


「あの、えっと、その、学校いつも早く!?」

「それはない」


「あ、圭一さん頬が腫れて!? 大丈夫」

「話を逸らすな」


優花が全部言う前に俺はきっぱり話を終わらせて本題に移させた。まぁ、頬はまだ痛いがそれより俺の質問の本当の答えを訊くのが先だ。


優花は愕然と地面に座り込んでしまった。


「お、おい、どうした?」


流石にその反応のは俺も動揺して声が思わず上ずってしまった。


「その、何時も五時間目に勝手に帰って、直ぐに圭一さんの所に来てるんです」

「おい、それは辞めろ。別に家の事なら料理だけで良いから、それだけは辞めろ」


正直に答えた優花に圭一はいけない事をした子供を叱る様に強い声で睨みながら優花を叱った。

優花は何も言わずずっと下を向いているだけ。


まさか、そんな事をしてると思ってなかった、いや、薄々気づいていた俺は呆れと怒りが込み上げてきた。


呆れはどうせ俺が帰って来る前に出迎えがしたいとかの理由だってのが丸分かりなところだ。怒りはそれに対する怒りだ。出迎えがしたいためにわざわざ学校を抜け出して来なくて良いのにこいつは………


「で、出迎えがしたかったんです。圭一さんがドアを開けたら奥さんが居るみたいに見せたかったんです」

「する理由も分かってる。だから、こそ言うぞ。俺なんかの為にそんな事しなくて良いからな」


俺が分かった口で言うと怒るとかはして来ないで更に落ち込んでしまい俺が思った事は当たったみたいだ。


俺が好きだからと言ってそこまでやる必要はない。そんな事よりオタクの俺が言うのもなんだが学業を優先しろと言いたい。


「優花、お願いだから、もう辞めてくれ。もし、辞めてくれたのなら、まぁ、その、週末はデートしてやってやるから辞めなさい」

「はい。辞めます」


おい、ゴラ、即答か! これは嵌められたには反応がおかしいから普通にエサで釣れられたな。


その後、何も無かった様に立ち上がった優花。俺は本当はあれは演技ではなかったのかと疑いを持ったが今回は信じてやろうとした。


圭一も立ち上がると優花の頭を撫でだした。優花もそれにビックリして「ふぇ?」っと声を漏らした。


「優花、ごめんな。泣かせて」

「いえ。私が悪いんですから」


それでも、圭一は辞めないで、更に抱き締めてながら優花を撫で始めた。


サラサラしていて撫でて気持ち髪。抱き締めるとほんのり触れるちょっと大きめな胸は男心を少し擽る。


(おっと。これ以上するとオタクから普通に戻ってしまうから止めないとな)


そろそろ止めないとこのままでは何かが変わってしまうと思いパッと優花を離して「何時もありがとう」っと言ってから俺は部屋に行った。

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