第11話;デートって難しい………

夏休みに入ってはや──二週間。俺は毎日コミケに向けて同人誌を書いているのだが、まだ完成はしていない。

このままだと締め切りに間に合わないが、まぁそこは気にしないでいこう。


「はぁ」

「まだ、何書くかで悩んでるの?」

「ん。あー、今のは優花と何処に出掛けるかで悩んでる」


あの野郎、『始めてのお誘いですから、圭一さんがデートの場所を決めて下さい!』だそうだ──

ふざけんな、こちとら原稿が間に合わないかもしれんのにそっちまでやれるかって話だ。でも、やらないとソラに何を言うか分からない。もしかしたらまた変な事言ってソラから俺の兄としての威厳を奪いに来るかもしれん。

それだけは絶対阻止!──何故なら、ソラが俺の一番の理解者であり『お兄ちゃん! お兄ちゃん!』と慕ってくれた奴だからだ。そんな可愛げのある弟から威厳を失ったらショックで立ち直れない………かもしれない。


女の子が喜びそうな場所か──何処だろう?

良くあるなら遊園地とか、この季節ならプールもありか…


「って、俺は何で悩んでるんだ」


俺は優花に嫌われたい。そう思っていたはずなのに優花と出掛けると聞いて何浮かれてるんだ。


最近の俺、ほんと可笑しくなってきてる。



優花が嫌いそうな場所か──


「浮かべねぇ……あいつ、俺が連れて行く所なら何でも喜びそうだよな」


優花ならありえる事だ。なら、もう普通に遊びに連れて行けば良いのか? そうか、逆にをやれば優花は気持ち悪がるか。


やってみる試しはあるな。もしもの為に違うプランも考えないと──



        ☆


「ね、眠そうですね」

「ん。あー、気にすんな。行くぞ」


結局、原稿書きながら考えていたら朝になっていて碌に寝てなくクソ眠いが我慢して今日を乗り切るしかない。なんだって、徹夜で考えたプランなんだから成功させねば──


まず、今日は遊園地は行かない。今日行くのは、


「しょ、ショッピングモール? 圭一さんが!?」


驚いてる。驚いてる。優花は両手をクロスさせて両方の二の腕を手で抑えながら何度もこっちを見て確認をとってくる。その度に俺は頷いて「ここだ」と答える。


「ほら、行くぞ」


俺は優花の手を握って前に引っ張りショッピングモールへと連れ込んだ。


「優花、今日は何時ものお礼だから、欲しい物があったらどんどん言えよ?」

「へ? は、はい」


その為に今日はへそくりも持ってきたんだ。優花が何を強請ってきても良い様にな。

それこそ、俺が一番やらないことで多分寒気もするんじゃないか?


「?」

「どうかしました?」

「いや、何も……。それより行くぞ、服見に行くか? それとも、鞄とかアクセサリーとかを見に行くか?」

「え。あ、そうですね……その、圭一さんにお任せしても良いですか?」

「勿論」


そうと決まれば服屋にでも行くか。そこで一杯服を買ってやれば更に寒気をさせることが出来るだろう。



「チッ………似合ってる」

「この際、舌打ちは聞かなかったことにします。でも、本当に似合ってますか?」

「うん。似合ってるよ」

「えへへ!」


紺色のミニスカートに白いブラウス頭にはキャスケットを被った優花は普通に可愛い。

と言うか、元が良いからどんな服でも優花には似合うと思う。


「これは?」

「可愛いけど?」

「これはどうです?」

「可愛いよ」

「これは?」

「うん。いんじゃない?」

「えへへ! お世話でも嬉しいです!」


お世話では無いが、少し予定外だ。ここで可愛いだけで褒めれば呆れられると(Webで見た時はそんな感じに書かれてたし)思っていたんだが駄目か……


服屋では二、三着買ってあげて優花は申し訳無さそうにしていたが、これは何時ものお礼もあるから買わせて貰う。


「うっ……なんか、今日の圭一さん可笑しいです」

「ん? なんか言ったか?」

「いえ! 何も!?」


良く聞き取れなかったが、これは上手くいってるのか? 優花は下向いてなんか言ってるし、これは効いてるな。


作戦が上手く行ってることに感心しつつ、次の場所へと向かう。


「……ここは」

「あー、お前の鞄に付いてた『クマ☆キャン』の店だな」


キラキラ目を光らせて今にでも飛び込んで行きそうなぐらい身体をウズウズさせてる優花。

ここに連れてきて、良かったな。優花、喜んでるし。


「わあ! 可愛い!」


いや、まぁ、見た目は可愛らしいんだが、設定がちょっと、独特と言うか、まぁ、うん。設定より見た目だ。今は気にしないでおこう。


優花はあちらこちら、と目移りしながら楽しそうにしている。それを口を緩ませやれやれ、と首を振ってから圭一は優花のもとに向かった。



        ☆


「うぅ、今日は買って貰ってばかりです」

「ん。なんか悪いのか?」

「その、やっぱり悪いですから、私も何か」

「良いから。こういう時は男に払わせておけば良いんだ。それでもお前が悪いって思うなら、また今度とびっきり美味しいタラコパスタ作ってくれよ。俺はそれで十分だから」

「は、はい…」


優花は渋々、といったところだが納得してくれてずっと下を向いていた顔を前に向けた。


何でだろう。こいつと居ると楽しいし、心が安らぐ。理由は───いや、今は止めておこう。それを意識したら多分、俺は冷静では居られない。


「優花、ごめん」

「え? 何で謝るんですか?」

「いや、そこは気にするな。俺が謝りたかっただけだから」

「逆に気になりますよ!」

「もう、良いから行くぞ」

「むぅ── はぁ、はい。もう思いは吹っ切れました! どんどんおねだりするので覚悟して下さいね!」



そんな俺の財布を軽くさせる事を満面の笑みで言う優花。


「はは……お手柔らかに」


冗談とも思えない優花の言葉に顔を引きつらせる圭一だった。



        ☆


「うーん! 楽しかった~」

「それは何よりだ」


はっはっは………普通に楽しんでしまった。


何やってんだよ。俺は……。途中から優花と楽しく遊ぶ事しか考えてなかったし、優花に嫌われ様とした作戦も全然使ってなかった。



いや──もう、良いのか。嫌われる様にするのは。もうしなくて良いよな。


「優花」

「はい、どうかしました?」


優花は圭一に呼ばれ振り向き。圭一は何時もじゃ絶対に見せない笑みを見せてこう言った。


でもね、ごめん」



    「






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