第5話;脅されてばかりだ………

「おい、どういうことだ。最近また優花がお前の事ばかり話してるんだが」


六月上旬。案の定優花のお兄さんである源二先輩にまたしても壁ドンをされていた。


流石に何度も見た顔なのである程度は怖くなくなったが、怖いのには変わらないので早く逃げたい。


「あの、嫌われるって具体的にどうやれば良いんですか?」


あのストーカーで変態な奴だ。俺の十八禁の本を見ても一歩も引かず、あわよくば次の日にはコスプレまでしてあれは俺の気を引こうとした行為なのかは分からないが、オタクである以前で普通の女性なら嫌がるのにそれで嫌がらない奴をどう説得しろと………………


「具体的? そうだな。優花はチャラい男が嫌いだ。試しに金髪にしてみろ。後は………取り敢えずチャラくしてみろ」


あ、考えるが嫌になったんだ。やはり脳筋は脳筋か………。


「金髪って、校則違反になると思いますけど」

「あ? 居るだろ。何か後輩共が騒いでたぞ。金髪美少女だって」


俺は先輩からの言葉に首を傾げた。


だって、うちの学校で金髪が居るとは聞いたことがないんだから。居るとしても精々茶髪ぐらいだ。


「とにかくだ。優花に嫌われることをしろ。じゃないと次は殺るぞ」

「ひぃ!」


俺はその殺るぞの意味を直ぐに理解してまたその場に座り込んでしまった。


           ☆


教室に戻ると何時もの自分に戻る。静かにラノベを呼んでキャラソンやアニソンを聞いて過ごす休み時間。


あぁ、これが毎日続けば良いのに――――


それを許さないのが、現実である三次元なんだよなぁ。

二次元なら自分が思う様に出来るのにほんっと理不尽だよな~


「はぁ」

「溜め息ついてどうしたの?」


圭一は唖然としていた。

それもそのはず。この学校で圭一に話し掛けるのは冷やかしの奴らか、優花の兄ぐらいだ。あのに掛かった声は女の子のもの。それも可愛らしく澄んだ声だ。


圭一はびっくりし過ぎて持っていたラノベを落としてしまった。

直ぐに、はっ!っとなりラノベを取ってから体制を整えてもう一度ラノベを読み出した。


「えぇ、無視って酷いよ~」


こう言うのは無視に限る。だって、こいつ、先輩が言ってた奴だし………………。


サラサラとした金髪。それを後ろで二つに縛ってツインテールしている。肌もきめ細かく白い肌。背は女子にしたら高い方だと思うが多分俺より背は低い。


そして、クラス中の視線がここに集まっている。これは決して関わってはいけないものだ。


「ねぇ、ねぇ! もう~、そんなにつれないと友達出来ないよ?」


また、無言でラノベを読み続ける。あと、うるさいからヘッドホンをしよう。


鞄からヘッドホンを出してイヤホンジャックをスマホに差して身体を少し縮ませて完全無視の状態をとった。


「むぅ。眉桷く~ん! 話聞いてよ~! じゃないと、これバラまくよ」

「は?」


そう言ってチラッとスマホの画面を見せてきた。

そこには見覚えがあるアパートで、優花が俺に抱き付いてきてる写真があった。


俺はまたしても唖然とした。こいつが何でそんなのを持ってるのか、そしてそれを見せてきたと言うことは………………


「何が目的だ」

「べっつに~! それと、ここで話すと広がるよ」


俺は一旦周りを確認してスマホをチラッと見て時刻も確認した。


「昼休み、俺に付き合え」

「おぉ、いきなりお昼ご飯のお誘いですか~、まぁ、良いですよ。眉桷君とお話してみたかったしね」


そう、小悪魔的な笑みを見せて金髪クズ女は帰って行った。


(あいつ、舐めるなよ俺を。こういった展開で一番有利なのはラノベをこよなく愛するオタクの俺が勝つんだってことを)


そして、何故かクラス中から殺気にまみれた視線で今日一日ずっと見られていた。


           ☆


「お願いします! それを消して下さい!」


俺は全身全霊で綺麗な土下座をしていた。


そう、ラノベでたず備わった知識は余計な真似や賭け事はしないで必死にお願いをして消して貰うことだ!


あんなのがバラまかれるぐらいなら俺はプライドなんて捨てる。俺は二次元が好きなんだ。あんな写真をバラまかれたら三次元でも大丈夫っと広まりせっかく作ったキャラが壊れてしまう。


「えぇ、ここはもう少し態度が偉そうな人みたいに消せ!とか、力押しで取ったり、酷いことして反対に弱み握るとかしないの?」

「お前は、俺をなんだと思っているんだよ」


こいつ、俺を変態とでも思ってるのか? まぁ、変態は変態だけど二次元の変態だ。三次元には興味すらない。


「まぁ、知ってるけどね」

「え。何か言ったか?」


何か小さな声で言った様な気がして俺は上手いこと聞き取れなかった。


「何も。うーん、そうだね。私と付き合ってくれるなら消してあげる」

「ふっ、何処に付き合え」

「そんなベタなボケは要らないから。私と交際をしてってことよ」


くそ、一度やってみたかったのに………………。


ラノベを読んで来たのなら若干ながら分かる。こういった展開に言葉と仕草を見ていれば何と無く言葉の意味は理解が出来るからこそボケたのに、こいつ………………。


だが、こいつは俺が好きではない。多分遊びで付き合えと言ってきているんだ。


だから、適当に促しとけば良い。


「で、何でそんな条件なんだ?」

「そりゃあ、もちろん好きだから」


「だったら、普通に告白して来れば良いじゃねーか」


正論である。こんな回りくどいやり方では無く真っ正面から来てくれたら俺も少しは照れただろう。まぁ、受けるとは言わないが。


女は言い返してこない。てことは当たりか――――


「そんな、反抗的な態度とるとこれどうなるか分かるよね?」

「あぁ、それか。もうどうでも良い。そいつは、俺の彼女だからなんだろうがバラまけば良いさ」


認めたくはないが、今はこうした方が効果的だ。


あいつはあれで脅せるから俺に会いに来たんだ。その脅せる物が無くなれば俺の勝ちは見える。


「?………。おい、どうした?」


女は俺にちかよって来てポンッと軽く手で殴られた。


「何で、何で、あの子なの? 私の方が絶対に早く眉桷君を好きになったんだよ。なのに、何であんな中学生なの? 最近ずっとだよね。私ずっと貴方を見てたんだよ? なのに忽然と現れた女の子に取られるなんて我慢ならない」


「へ? あ、いや、その、どういうこと?」


早口で言われ全く理解が出来なく思わず聞き返してしまった。


「だから、本当に好きなの、去年の春からずっと。眉桷圭一君が好き」


ふむ、この場合の手段は………………ない。


( ヤバいぞ!? 考えてなかった。本当に俺が好きと言う想定はしてなかった。と言うか、お前か俺をストーカーしてたのは………………ここは優花と同じ対応でやれば良いのか)


そうと決まればさっそく実行しなければ――――


「えっと、俺は三次元は好きになれない。だから、諦めろ」


「か、カッコいい」


何故そうなる!? 意味が分からん………………。


うっとりとした顔で圭一を見ているリリスは本当に恋する乙女みたいな瞳をしていた。


「いや、だから、断ったんだよ? 何か反応と言うか、落ち込まないの?」

「それ、ふった人が言う?………………。まぁ、諦める気ないから別に」



そこは、諦めてくれ。



心の中でそう叫んだ。


「と言うか、全不定したね。写真の女の子が彼女じゃないって」

「え。あ、いや、それは」


三次元は好きになれない。さっきそう言ってしまったから今さら言い直せない。


「まぁ、良いけど、リリス・マールだよ。リリスって呼び捨てにしてね」



あぁ、現実は残酷で理不尽なんだ――――

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