第4話;裏技ってなんだろう………
「優花、これってどうするんだ?」
「あ、それは廃品回収の時出すので玄関にでも置いておいて下さい」
俺は優花にそう言われ溜まった雑誌類を纏めて玄関に置いた。
「?………。あの、どうかしました?」
圭一は雑誌を置くと黙ってその場に立ったまま動かなくなった。
「ちっがうぅぅぅ! おい! 優花、お前また勝手に人の家に入って来るな!」
圭一は怒声を上げて優花に向かって指を差した。それに優花はびっくりして目を見開いていた。
「また、それですか? 何時も言ってますよね。私は圭一さんに好きになって貰いたいから来てると!」
あぁ、そうだよ。それは知ってるんだよ。だけど、それをここ数日続けられると馴れてきてツッコミを入れるのすら忘れかけていた自分を殴りたい。
毎日、毎日俺の家に来ては炊事、洗濯、俺のオタク話も真面目に来てくれて、時に笑ってくれたり、一緒にゲームしてくれたりと…………糞、何で俺は満喫してるんだ。
このままではあのストーカー野郎に洗脳されて行く――――!?
それは阻止せねば俺の未来がなくなる。
「優花、金は払うからもう帰ってくれ」
「うーん。お金とかは要りません。出来るなら圭一さんが持っている十八禁の本とか見せて欲しいです」
な、なんだと………………!?
俺がちょいちょい裏技を使って入手している十八禁同人誌を何故こいつが知っている!?
いや、嵌めるための罠か? いや、こいつだったらそんな手の込んだことはしてこないはず、一切許可取らず捨てたり、これ何?っと聞いてきて理不尽な説教をしてくるはずだ。
いや、それはラノベや漫画の世界だけだ。 だから、ここは………!
「持ってない」
「ふーん。棚の後ろ、ベットの下、机の下辺りのカーペットの下、作業用の机の中にも数冊」
「な、何で、知ってるんだよ………」
「単純なんですよ。何時もラノベとか読んでる割りにそういった場所に隠す圭一さんは」
いや、だって仕方がないじゃん。この部屋に住んでるの俺だけなんだし。隠す場所だって単純になってしまう。それに優花が来る前とかだったらそこら辺に放置していた記憶もある。その時にバレたのかな……………。
そして、大人しく俺は数冊持ってきて優花に渡した。
「ほぇぇ! あわわ!」
顔を真っ赤にして同人誌に顔を埋めている優花。
俺はそれにどう反応して良いのか分からなく少し気不味かった。
「ふぅ」
優花は読み終わったのか深く息を吐いてギロッと俺を睨んできた。
それがこいつの兄である源二先輩の目にていて身体が少し硬直した。
「圭一さん。明日また来ます」
「え。あ、うん。じゃなくて来んな!」
だが、優花もう帰ってしまっていてその言葉は届いてなかった。
☆
日曜日。そう、今日は新作が出る日! 今日は朝から優花は来てないから一人で久々に出歩ける!
「はぁ、何て清々しい日なんだ。あいつから解放されて。俺は自由だー!」
あいつが居ない空間は清々しくてもう喜びの笑みが止まらない。
俺はやっと自由になれたんだ。
「おぉぉ! 『アルティメット・ギア』の新作!」
異世界冒険者もので日々鍛練してヒロインである騎手王国の姫に勝ちたい主人公っと良くある物語だが俺は好きだ。
主人公が日々努力して夢を追い掛ける。そんな物語が俺は好きなんだ。
「あはは。喜ぶのも良いけど、レジの邪魔だからどっか行ってくれる?」
「って、言っても俺以外居ないから良いじゃん」
ここは湯雲書店。レジに居るのがここの店長の
「てめぇ、喧嘩売ってんのか!」
「いや、喧嘩も何も本当の事でしょ」
「くっ!」
由香里さんは悔しそうな顔で机の上で拳を強く握っていた。
俺は苦笑いをしつつ買ったラノベを胸もとで強く抱き締めて暫く喜びに浸った。
「あ、これの新刊も今日か」
もう一つあることを忘れていて。これはファン失格だなと思い一度自分の頬を叩いてから本を取った。
「おいおい、いきなり自分の頬を叩くから、そっちの変態になったかと思ったぞ」
「いえ、その、自分に罰をと」
「罰? 意味分からんぞ」
由香里さんに飽きられた顔で言われるが反論が出来ないので黙って持っていた本を渡した。
「『月花は散る』か。これ、マイナー作品だろ」
確かに月花は散るはマイナー作品だ。作者は綺羅摩耶先生だ。この先生は二年前から活動してるがまったく売れることはなかった作家だ。
多分、そろそろ打ち切りにされると思われるが、俺はこの作品が好きだからそんなことはして欲しくない。
内容は難病の女の子が毎日お見舞いに来てくれる幼馴染に恋をするお話。今では美術は治ってその幼馴染とイチャイチャしてる部分が書かれているが多分このままいけばまた女の子が発病してバットエンドで終わると思う。
だから、マイナー作品なんだ。単純テンプレ過ぎて内容が余りこってない。何故こんなのを書籍化したのかネットでは凄い叩かれていた。
だけど、なんか憎めないんだよな。この作者――――
本人なりに頑張っている熱は伝わって来る。あと少し良くなれば絶対に良くなる作品だと俺は思っている。
由香里さんの店でめぼしいラノベや漫画を買ったら直ぐに家に帰って行った。
☆
(この感覚は………………!?)
何時も通りの道で後ろから来るズキズキ刺さる視線。
これは、前からあるストーカーの視線だ。
でも、おかしい。優花ならもう遠慮無く家に上がって来るからストーカー行為をする理由が分からない。
それに、あいつ前に、
「まぁ、圭一さんの場所ならGP………何でもありません」っと俺の身体かスマホの何処かにGPSを付けられている様なことを言っていて凄く怖いが、それでストーカー行為をする理由もなくなる。
(じゃあ、誰なんだ………)
俺は怖くなって家にダッシュで帰った。
「あ、お帰りなさい、その、ア・ナ・タ! キャ! 言っちゃった!」
頬を赤くして首を振るう優花を見て少し安心した。
「な、なぁ、優花。俺をストーカーしたことあったか?」
「え。そんなことはしません。まぁ、その、それぽいことはしてましたが。今はしてませよ」
それぽいって後を付けたりしたらそれはもうストーカーだぞ――
「そ、そうか」
「えっと、まさか、居たんですか?」
俺は首を思い切り横に振った。
優花から出てるオーラは居るなら殺しに行くみたいな殺気が出ていてとてもじゃないが言えなかった………
「………今は信じます。でも、何かあった後じゃ、嫌だから。その、本当に何かあったのなら私に言ってくださいね」
そんな心配してくれる言葉を掛けてくれる優花。俺は嫌われたい。こいつに嫌われたいのに、そっと頭に手を乗せて、
「ありがとう。俺は大丈夫だから、心配すんな」
「は、はい」
俺はそのまま部屋の方に行き。
(あぁぁぁぁ!! なにやってんだ! あいつに嫌われたいのに、何であんな言葉を掛けたんだ)
部屋のドアを閉めたら狭い部屋でゴロゴロと転がり今さら悔やんでいる圭一。
「何やってるんですか? そんなに転がったらまた部屋が散らかりますよ」
優花にそう言われ圭一は大人しく椅子の方に座った。
圭一は机に向かって夏コミで出す予定の原稿を書いていて、少し離れた所に優花がムズムズしながら座っている。
「あ、あの、圭一さんはコミケと言うものに出す作品を作ってるんですよね」
「まぁ、そうだな」
「な、なら、私。モデルになります!」
「モデル?」
モデルあれだよな。登場人物の見本にする様なやつ。確かに俺が書いてるのはちょうど優花と似てるが………。
「そのために、今日は色々と準備して来たんです!」
「準備って、何をしてきたんだよ」
そう言うと優花は持ってきていた大きな鞄を運んで来てチャックを開けるとそこには色んなコスプレ服があった。
「え。これ、どうしたんだ?」
「えっと、最初に圭一さんがオタクっと知ったので、そう言う人ならこう言うの好きかなって集めてました。ですから、私をモデルにして下さい!」
モデルって言ってもなぁ………。
俺が書いてるのは少し危ないシーンもあるから、いや、そこまでさせなければ良い問題か。
「なら、お願いするよ」
そして、それからはブルマやメイド服、アニメのキャラとかのコスプレもしてくれた。
流石に裸エプロンは止めたが、裸ワイシャツもやろうとしたのでそれも流石に止めた。
「むぅ。本当にあれなくて大丈夫ですか? 今からでも大丈夫ですよ」
「いいや、十分だ。それよりもう遅いから今日は帰るんだ」
石段の辺りで裸系の服を描かなかったことに不満持っている優花をさっさと帰らそうとしてるが中々帰ろうとはしない。
「はぁ、送っててやるから、今日は帰れ。いや、明日から来んな」
ここはちゃんと言っておかないと「今日はってことは明日は来て良いんですね!」っとこいつの場合来るのでちゃんと言わないと駄目だ。
「ちっ………………。分かりました。なら、何時もの場所までお願いします」
舌打ちしたってことはこいつマジで言う気だったのか………
「はいはい」
その後、優花を駅まで送り、俺は自分の家へと帰宅した。
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