第16話 ネコの手作り 1

 陽射しがカーテンの隙間から差し込み、今日の起床を告げる。が、肝心のアラームは鳴らず、貴紀は今もぐっすりと眠っている。

 そんな時、貴紀の布団から起き上がる影があった。


「ニャ……ぅぅ……」


 眠たい体に鞭を打ち、ようやく立ち上がったティアがまず行ったこと。それはアラームをオフにすることだ。


「五時……にゃう……」


 確かに陽射しが見える。

 ただし普段の起床時間より二時間も早い。ならばどうして、ティアが眠たいのを我慢してまで、一人で起きたのかと言うと……。


「ご主人の……お弁当、作らなきゃ……」


 昨夜。

 貴紀を強引にベッドへ誘うも、結局ティアが寝付いたのを良い事に、こっそりと別の布団を敷いて眠ったのだ。

 しかしそれに気付いたティアは、逆に貴紀の布団に潜り込んでいたのである。よって、二人は一夜を共にする事となった。


 ──が、それでも貴紀が避けていることに変わりはないため、ある決意を固めた。


「男の心を鷲掴み……。胃袋を掴む……」


 無造作に床に落ちている週刊誌を手に取る。そこにはデカデカと、『男性を虜にする方法』と書かれていた。

 これで女の子の勉強をするようにと、貴紀から渡された女性週刊誌である。その中には恋愛をテーマに書かれたページがあり、男性を魅了するなら胃袋を掴むべし! という事らしい。


「胃袋を掴む……の意味はよく分からないけど、お弁当を作ればいいんだよね?」


 ティアは当初、どうすれば胃袋を掴める(文字通り胃を手で掴むの意)のか、分からず随分と悩んだ。しかし読み進めるうちに、どうも意味が違うことに気付いた。

 因みに『恋愛』というワードに関しても、そこまで理解出来ていない。

 ただ、大好きなご主人を離さないためにはどうするか。それだけを考えて、今日はそれを実行しようというのである。


「大丈夫……ご主人をずっと見てたし」


 週刊誌の中には、お弁当についても偶然書かれている。その通りにやれば、きっと上手くいくに違いない。


 根拠もなしにそう思うティア。

 今、初めてのお弁当作りの始まりである。

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