第11話 ネコと休憩
「新井。休憩入っていいぞ」
「あ、はい店長」
昼のピークが過ぎて、店長の
残りの食器を素早く片付けて、休憩室に向かう。
「にゃん、タカにゃんも休憩にゃん?」
「ミリアさん。お疲れ様です」
「お疲れにゃーん♪ でも、タカにゃんは少しお堅いにゃん」
貴紀は疑問符を浮かべつつ、ミリアとテーブル挟んだ対面に腰掛けた。
しかしそこへ、ニヤッと笑ったミリアが素早い動きで移動して、貴紀の隣に座った。
「にゃん♪」
「うおっ……」
「にゃははは♪ 『うおっ』って、おもしろい反応ねん」
「だってミリアさんが──」
「はいストップにゃん!」
「ぶぶッ! な、何するんですか……」
弁明しようとする貴紀の口を手で塞ぐミリアは、少し不満そうな顔で詰め寄る。
「タカにゃんは堅いのにゃん」
「さっきも言ってましたよね、それ。何なんですかほんと……」
「それにゃ! いつまでミリアに敬語使うつもりなの?」
ミリアの言う堅いとは、貴紀がファミレスでバイトをするようになってからというもの、ミリアに対してずっと敬語で接しているからである。
「は? いや、一応先輩ですし……」
「一応は余計にゃん! ちゃんとバイトの先輩なんだよん。でぇーもぉー……。ミリアは友達に敬語を使われるは嫌いにゃん。
まして、ミリアはネコにゃ。人間のタカにゃんよりも、ずーっと歳下なんだから気にする必要はないにゃん」
友達。一体いつからミリアとは友人……? 友ネコ? 関係になったのだろう。
そんな風に感じる貴紀にとって、ミリアはバイト先の先輩で同僚という感覚の方がずっと強いのである。
「はぁ……まぁ、そうですけど……」
「もう……。最初は緊張感もあると思って、仕事ちゃんと覚えるまで我慢してたのにゃん。でも、いつまで経っても敬語のままじゃあ傷付くにゃん」
「…………」
貴紀がミリアに、気安く接することが出来ない要因は他にもある。それこそ、ティアのようにただのネコというだけなら、もっと気軽に接する事は可能だ。
しかし、このミリアというネコや、他の二匹のネコに対しては中々そうはいかなかった。
「そろそろいいと思うのにゃ。仕事も覚えて、他のスタッフとも楽しく会話できてるでしょ? いい加減ミリアたちとも砕けた感じで接してほしいにゃん」
「はぁ……」
これだ。まさにこの『大人の対応』が原因となっているのである。
ネコなのに……ティアと同じネコなのに、まるで成人した人間と接しているように感じるのである。あまりにも人間臭い。
ティアはまだ子供のように、本能に忠実なところが目立つが、このファミレス『ネコマリア』のネコたちは理性的過ぎるのだ。
「ほーら、タカにゃん。練習するにゃん♪」
「練習……ですか?」
「アウト! 『ですか』はいらないのにゃん!」
「そんなこと急に言われても……」
貴紀の知るネコはティアだけだ。だからこそ、ティアとここのネコたちのギャップに戸惑いを感じるのだ。
もう少し成長すれば、ティアもこうなるのかもしれないが……。貴紀にとってのネコとは『今のティア』である以上、今すぐ要望に応えるのは難しいのである。
「まぁ、少しずつお願いしま……しようかな」
「っ! うんうん、その調子にゃん♪」
「うわっ、ミリアさん!?」
「『ミリア』にゃん♪ ごろごろぉ♪」
パアッと目を輝かせたと思えば、まるでティアのように胸に飛び込んでくるミリアに対し、貴紀はみっともなく慌てふためく。
ミリアもまた、やはりネコなのである。
「ふふふーん……ん、んぅ?」
幸せそうに抱き付いていたミリアだったが、何かに気付いた様子で鼻を鳴らす。
「な、なに? 臭います?」
「うーん……臭うにゃん。これは……。ふーん……そういうことにゃん」
「? 一体……ひゃい!?」
何かに納得したミリアは、貴紀から顔を離したと思えば、すぐに首元をひと舐めする。突然のことに何度目かの動揺が走る。
「な、何して──ッ」
「れろ……ちゅぷぅ……。パァ……にゃう、取り敢えずこれでいいかにゃん。じゃあまた後ね、タカにゃん。もうミリアは休憩終わるから行くにゃん♪」
今度こそパッと体を離したミリアは、すたすたっと足早で仕事に戻っていった。
後に残ったのは、訳も分からず放心して動けない貴紀だけだった。
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