第10話 ネコのバイト

「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」


 貴紀はこの日、いつものようにバイトをしていた。自宅近くにはファミリーレストランがあり、真っ先にそこへ面接に行くと、案外あっさりと採用されたのである。

 担当はホール。キッチンには四人のスタッフがいるが、接客担当は不足していた。そのため、貴紀のようなバイトは貴重な戦力となるである。


「五番卓からオーダー。ミートスパゲティにお子様ランチを一点ずつお願いしまーす」

「はいよー。今日は客が多いな」

「そうですね。まぁ、日曜の昼ならこんなもんですよ」

「ほーら、貴紀くんと河野さんも仕事して下さいよ!」

「はいよ。三浦ぁ、二番卓のパフェさっさと作れー」

「あうっ……! わ、忘れてた!」


 三浦縁みうらゆかりが慌てふためくのを眺め、貴紀はこっそり笑った。

 大学兼バイトの先輩である縁とは、ここで知り合って以来の仲で、いつも面倒をみて……あげている立場にある。何故かと言えば見ての通り、意外におっちょこちょいで勉強も結構苦手だったりするのだ。


「先輩。八番卓のお客様、パフェはまだかーとの事ですが?」

「あうあうっ……。私がオーダー受けたんだった……」

「しっかりしろよ三浦。ボケの進行が早まるぞ」

「河野さんっ!」


 悟のヤジに強い反応を示すところは子供のよう。ポンコツ度で表せば、この店で一番なのは言うまでもない。


「にゃん♪ ゆかりーん、七番卓の注文ミスったニャン?」

「ふえええぇぇ……」

「ミリアが謝っておいたニャン。次から気を付けるのよーん」

「ごめんねぇ……ミリアちゃん……」

「これくらい朝飯前にゃん♪ タカにゃんも、困ったらミリアに相談すると良いのよ」

「あ、はは……その時はよろしくお願いします……」

「任せるニャン♪」


 元気よく話を終えると、ミリアはいち早く品物を届けに向かった。その瞬発力は流石はネコと言える。


 そう、このファミレスではネコが三匹も働いているのである。

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