第7話 ネコの威嚇

 水族館を堪能した貴紀とティアは、昼食を買うためにコンビニに来ていた。


「ご主人! ご主人!」

「するめジャーキーでいいんだな?」

「うん!」


 ティアは食べてはいけない魚を見続けて、遂に我慢の限界を迎えたのである。兎に角、何かを食べたいと……。


「五十袋も入ってるのか。これがいいな」

「ご主人。早く買ってよー」

「わあったよ。すぐ買ってやるから」

「ご主人!」

「今度はなんだ?」

「これ! エビ煎餅せんべいもっ!」


 ティアは魚介系風味のものを好む傾向がある。ネコだから、それくらいは普通のように感じていた。

 とはいえ、ネコは猫と違い、大体なんでも食べることができる生き物である。それはティアも例外ではない。だから魚介以外も当然食べるし、お肉も大大大好きなのだ。

 野菜は嫌い……。子供か!


「するめ! エビ!」

「するめはともかく、エビ煎餅にエビはほぼ入ってないんだがな」


 ねだられるままに購入したティアのおやつ。コンビニを出た直後、ティアはエビ煎餅の封を開けて、バリバリと良い音たてながら食べ始める。


「う〜〜ん! 美味しいよご主人!!」

「そりゃ良かったな」

「うん!」


 幸せそうな顔で食べている姿を見れば、何となく癒された気分になる貴紀。

 五枚入りの煎餅は、あっという間に最後の一枚になってしまう。大事そうに抱える袋から、名残惜しそうに取り出すティアは、勢い良く煎餅に齧り付くが……。


「ふぅわ!」

「あー、落とした」


 残念なことに、齧り付いた箇所を起点として、煎餅の一部が地面に落下する。

 ティアは慌てて拾い上げようとしたが、それよりも一瞬早く、何処からともなく現れた野良猫に強奪されてしまう。


「あっ! 待ってそこの猫っ!!」


 呼び止められて、まるでそれに応えたように振り向く野良猫は、煎餅を口に咥えた状態で果敢にもティアへ威嚇を開始する。


「むっ……やる気、なんだな!」

「グルルル…………ッ!」

「シャアアアアアアアア…………ッ!!」

「お、おいティア……」


 ネコと猫の体格差は歴然。この勝負の勝敗は見えている。結果の見える戦いを挑もうとは……この野良猫はバカなのか。

 貴紀はそんな感想を抱きつつ、仕方なく様子を伺うことにする。

 そして──。


「うえぇ〜〜〜〜ん……ま、負けた。負けちゃったよおおおおぉぉぉぉぉっ!」


(は、恥ずかしい……。これだけの体格差と、有利な二足歩行ができるネコが……こんなあっさり?)


 あまりにも呆気なく、ただ何度も爪で攻撃されただけで、ティアは痛がって泣き出してしまった……。野良猫はまるで『たわいも無い』とでも言ったかのように、悠然とその場を去っていった。


「ご主人んんんんっ〜〜〜〜」


(い、居た堪れない……っ)


 それからもう一度コンビニに戻り、エビ煎餅を購入したが、ティアは家に帰るまで、絶対にその袋を開けようとはしなかった。

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