第13話 ネコの意地

 夜。貴紀がお風呂から上がると、ティアは再び不機嫌な状態で密着した。ティア自身も入浴を済ませており、ネコの匂いは一時的に薄まっているが、そんなことは関係ない。


「あのなぁ……いい加減離れてくれ」

「イヤ」


 お風呂で体を綺麗にしたのだから、当然貴紀からティアの匂い、そして他の雌の匂いも洗い流されている。

 貴紀としてはそれで文句はないだろう、そう思うのはごく自然なことだった。


「ご主人。今日は一緒に寝るー」

「一緒に……って、同じ布団でか!?」

「うん」

「いや、それはダメだ!」

「どうして? 前は一緒だったよ?」

「それは……まだお前が小さかったから……」

「……? どうして? どうして大っきくなったらダメなの?」

「そ、れは……」


 ティアの精神年齢は低いが、体は大人の女性と大差ない。いや、寧ろプロポーションは人間の女性よりも美しい。

 細くて綺麗な手足、引き締まったお尻にくびれた腰。決して大きい訳ではない胸は、その要素をより引き立てている。

 そんな美しい女性の隣で、思春期の男が眠るなんて生殺しに等しい。


(言えるかそんなこと……。それに言ったとしても……)


 子供のティアには分からない。体ばかり大きくなっても、心は未だ未発達。きっと理解も納得も得られない。


「とにかくダメなもんはダメだ」

「イヤ──ッ!」

「我儘言うな。それ以上言うと明日のご飯抜きだからな」

「イヤイヤッッ!」

「ええい、聞き分けのない……」


 いつもならご飯抜きで止まるティアだが、今回ばかりはそうはいかない。実を言えば、ティア本人もよく分かっていない。


(ご飯抜きはいや……。でもご主人に雌の匂いがつくのはもっとイヤ──ッッ!)


 そんな強くて確かな思いがあるから、今日のティアは是が非でも引かない。


「じゃあご主人、明日から外でない?」

「無理に決まってるだろ!」

「じゃあ嫌! シャアアアア──ッッ!!」

「こら飛び掛かってくんんん──っ」


 そして取っ組み合いの喧嘩はなんと一時間も続き、ようやっと貴紀が折れる事で終息することができた。

 飼いネコとしての意地が、勝利した瞬間であった。

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