22話 帰還の幕間
時は普と桜衣が裏世界に飛ばされてすぐに逆戻る。
「おい!やべぇよ代音と桜衣さんが消えちまったぞどうすんだよ!」
勇者として召喚されたとしても、ちょっと力を持っただけの高校生の集団は、存在を疎ましく思っていたはずのクラスメイトのトラブルにですらすぐパニックを起こす。
「狼狽えるな!すぐに騎士団の精鋭2名を向かわせた、きっと救出されるはずである。代音君と桜衣くんが戻るまでここで待つのは危険だ、街まで戻るぞ油断するなよ!」
グレイブの覇気の籠った掛け声で、クラスメイト達は気を取り直し、来た道を戻るのに進み始めた。
「念の為、グループのメンバーが全員いるか確認してくれ」
幸いにも代音と桜衣以外には裏世界に飛ばされたものはおらず、お通夜モードで来た道を引き返していく。
「おい、代音と桜衣さん大丈夫かな」
黙々と誰も話さず街へ引き返していたはずだが、やがてこの雰囲気にも慣れたのかコソコソ話始める者が出てきた。
「代音はどーでもいいけど、我らがミューズ桜衣さんは無事でいてほしいよな」
「いや、お前それはなくね?」
すかさずもう一名が否定し、話しかけられた男子が「ん?」と訝しげに相手を伺う。
「だってさ、お前ミューズはなくね?キモいぞ」
「そっちかよ〜、うわ、びっくりしたわお前が代音の心配してんのかと思ったわ」
「んなわきゃねーだろ」
だよな〜とケラケラ笑う男子2名に、普段いくら快く思っていない相手ではあっても流石に生命の危機に瀕しているであろう代音をネタにしてふざける2人には、白い目が向けられている。
「ちょっと!普が死んじゃうかもしれないっていうのに何がそんなに面白いのよ!」
みんなと同じように、一言も話さずに青白い顔をして歩いていた柚姫が前方の男子に怒鳴る。
普が裏世界とやらに飛ばされてからというもの、最初はショックから立ち上がれず両端から支えられてなんとか歩いていた姿からは想像も出来ない怒気を発している柚姫にふざけていた男子達も「うっ」と言葉に詰まるが、柚姫という学院の美少女に心配されている普に対する嫉妬が勝るのか、謝らずにさらにふざける。
「こんなんただの冗談じゃん、場を和ませようっていう俺の気遣いだよ気遣い、そんなにムキにならないでよ〜、それとも天音さんは代音が好きなんですかぁ〜?」
「そーそー、場を和ませようっていう俺たちのウィットで小粋なジョークだよ」
ふざけた態度を崩さない2人に向けて、とうとう拳を握り締め繰り出す寸前、
「ぎゃっ!」
「うわぁ!」
ガッと衝撃音がして、短い悲鳴が2つ上がる。
1番列の後ろにいて、柚姫と歩いていたはずのリアがふざけていた男子の後ろに突如現れ首を殴っていた。
「目障りじゃ、その口二度と開けなくしてやろうか」
気を失い、ダンジョンの床に伸びている男子2名を冷ややかに見下ろしながらぶつぶつと口を塞ぐ(物理)を実行しようとしているリアを騎士団が諌め、「妾を諌めるなら何故すぐにあやつらを諌めぬのじゃ」と苦言を呈してなんとか最初の街まで戻っていく。
すると、ダンジョン前にいた騎士団の1人が予定よりも早い帰還に驚きつつ、近寄ってくる。
「随分早いご帰還ですね、何かトラブルでも?」
勇者一行の顔色が悪く、団長であるグレイブの引き締まった表情から只事ではないと察したのか問いかける。
「生徒が2名裏世界に飛ばされた、私はこれから城へ行き陛下に報告してくる。お前は生徒たちを無事に王城まで送り届けてくれ、頼んだぞ!」
言うや否や馬にまたがり駆けていく。
「で、ではみなさん僕に続いて馬車に乗り込んでください」
馬車に乗り込む途中、「なぜこの2名は倒れているんですか?」と聞かれ、聞かれた女子生徒が「自業自得です」といい首を傾げたり。
そんなこんなで、王城へ辿り着き各々与えられた部屋へ戻っていく。
普と桜衣の訃報を聞いたのは、翌日のことであった。
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