18話 年は取りたくないね
あたりをぐるりと見渡してみると、そこかしこからモンスターの唸り声が聞こえてきた。
異世界に召喚され一月も経たないで連れてこられたダンジョンで、味方だったはずの者達に嵌められ、強敵渦巻く裏世界に飛ばされる。
考えれば考えるほど絶望しかない状況。
これをやられたのが俺じゃなくてもし柚姫にやられていたかもしれないと考えるとゾッとする。
リア?
あいつなら小指の先っちょだけで
あいつらは、ここまで俺の死体を探しにやってくるだろう。
裏世界とて、レベル40あれば楽々踏破できる。
なにより、前回ここに来た際に色々と試した事もあるので、裏技的なものもあるにはある。
ただ、その裏技がまぐれにしか発動出来ないのでレベルに余裕のある者以外試さないし、自身の命を資金石に、博打を打つ者達は……うん、多分そう多くはないんじゃないかな?
ほら、冒険者って博打好きだし?
さてと、色々物思いに耽っていた間にありとあらゆるモンスターに囲まれたもんだ。
ミノタウロスにゴブリン、ゴブリンの上位種キングゴブリン、あとはメイジゴブリンに意外と凶暴で厄介なスライムやファイヤウルフ。
「はぁ、一対多数は卑怯じゃないっすかね?」
いくら異世界召喚特典のチートスキルがあったとしても、普通なら泣いて狂乱して逃げ場もないのに逃げようともがいたり、とにかくこの場から逃げようと足掻くだろう。
全く意味がなかったとしても。
そして、モンスターの群れにやられて、口きけぬ屍になって。
クラス一の嫌われ者で王国にとってのお荷物は、初めてのダンジョンにはしゃいで罠にハマってさようならしましたとさ、めでたしめでたし。
「そんな感じのシナリオってとこかな〜、多分」
あいつららしいクソみたいなシナリオだ。
それをわざわざ救いに危険を犯してまで救いにいく心優しい私たちっていう心胆もあるだろう。
ただ、あいつらのクズ具合に少しホッとした部分もあって…
「たく、俺も心配しすぎだよなぁ。もしあいつらが心入れ替えてたりしたらどうしようか、なんて。そんな奴らなら俺に罪なすりつけたりありもしない噂流したりしないっつーの」
そもそも、裏切って殺すような奴が1人でに改心するとか、どこのゲームかって話だろ
怪盗さんが関わってるなら話は別だが
「さて、無駄話も無駄な思考もやめだやめ。2度目の召喚、ブランク数年、力慣らしと行きますか!」
ダンジョンに挑む前に支給された、安物の剣を横薙ぎに振るう。
すると、俺の周りを囲っていたモンスター達が一斉に黒い煙となって消えた。
ただ、一際大きいボスみたいなモンスターが腹に一文字の傷が付きながらもまだ立っていた。
「うそーん、マジかよ現役バリバリ勇者様時代はこんな奴ら一撃だったのに…」
腹の傷によろけながらもこちらを睨みつけ、大きく息を吸い込むミノタウロスに、実力の衰えを感じながらも、今度は少し真面目に剣を構える。
「はあ…まさかこんなに衰えてるとは、歳はとりたくないね」
体の中の空気を吐き出し、出し切ったところで素早く息を吸う。
それと同時にまたも横一文字に刀を振う。
雄叫びを上げながらこちらに向けて駆け出したはずのミノタウロスの上体と下肢がズレた。
「ブモォ?」
顔いっぱいに困惑を浮かべながら、間抜けな声を上げるミノタウロスは上体と下肢を真っ二つにさせて地面に倒れ伏した。
消滅する際に立つ黒い煙を眺めながら、岩陰に向けて声をかける。
「おーい、もう出てきて良いぞ」
安物の剣をちょっと真剣に構えたあたりからいることはわかっていたが、あえて声はかけずに放置していたのだ。
おずおず、といった感じで出てきた人物に思わず苦笑する。
「やっぱりなぁ」
と、どこか苦笑を滲ませながら相手の顔を見やった。
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