9話 ステータス

翌日8時


「あ、と、えーと、おはよう…」


与えられた部屋から出て、少し歩くと柚姫と会った。

昨日の歓迎パーティーで誤ってアルコールの入った飲み物を飲んでしまい、酔っぱらってしまった後の記憶もあるのだろう、少し気まずそうに挨拶をしてくる。


「あ、ああ。おはよう」


昨日あの場で敬語は使わないと約束した、というよりはさせられたので意識してフランクにしてみる。

しかし、なぜかどこかぎこちない。


「とりあえず、行くか」


「そ、そうね」


お互いにギクシャクとしたまま向かうべき場所は同じなので並んで向かう。

廊下は無駄に、馬鹿みたいに広いので二人くらいなら並んで歩いたところで邪魔になどならないだろう。

ずっと無言もいたたまれないので、細々と話しながら歩を進める。


「えっと、天音...昨日はごめん…」


多分、昨日大勢の前で酔っ払い絡んできたことを言っているのだろう。

しかし、柚姫をあそこまで追い込んでしまったのは俺のせいでもある。


まあ、本当なら彼女でもないのにそこまでの責任を負う必要も無いのだが。


「いや、気にするな。さんざん敬語はって言われてたのに使い続けてた俺に非があるからな」


素の状態で話すのが久しぶりだからだろうか、最初は物珍しそうにこちらをちらちらとみていた柚姫がいきなり顔を手で覆い後ろを向きだした。


「どうした?」


あんまりにいきなりの行動だったのでびっくりしてきいてみると、こちらを見ないままに質問に答えだした。


「な、なんでもにゃい!」


盛大に噛んだ。

隠しきれていない耳がほんのりと朱色に染まっているのが見える。


「今噛んだよな?フッ、にゃいって」


ついつい笑ってしまうと、顔を覆っていた柚姫がおもむろにこちらを向いて赤い顔のままポカポカと殴り掛かってくる。


「もうっ!こういう時は気が付いてても気づいてない振りをするものよ!」


「いてて!悪い悪い!」


正直まったくと言っていいほど威力はないが一応は痛がって謝罪をする。

すると、いつの間にか普段通りにしゃべることができた。

先ほどが嘘みたいだと思えるほどにするすると会話が続いていく。


「あー、今日から訓練かー。一体全体どんなことやるんだろうね」


「ゲームみたいにステイタスとかレベルとか見られるのか、気になるな」


まるで、勇者召喚されたのは初めてみたいな態度で会話していく。

実際、俺みたいにポコポコ召喚されるやつも稀だろうから一回目の時のことを思い出しながら話していく。


「私も昨日の人みたいに飛べるようになるかなー?」


「できるんじゃないか?ただすごく難しそうだよな」


たわいもない話をしているうちに集まるように言われていた広場に到着した。

すでに俺と柚姫以外のクラスメイトは集まっていて俺たちは最後だった。

柚姫と一緒に来たため何も文句を言われずに済んでいるが、俺一人だったら確実に苦言を呈されていたことだろう。

実際、俺たちの教育係だろう騎士の壮年の男性が俺だけをにらみつけていた。

あからさますぎんだろうと、とても、めちゃくちゃ、すっごく思ったが猫をかぶりなおして笑顔で頭を軽く下げる。

すると、騎士の男はおもむろに花をフンっと鳴らすと全体をぐるりと見まわししゃべり始めた。


「私は陛下から諸君の教育係を仰せつかった近衛騎士のクレイブ・ソルディである」


腹から声を出しているのだろう、とても広い広場にクレイブの声が響き渡る。

周りにいた男子生徒たちも声に圧倒されて背筋がとても伸びている。


「まずは諸君のステイタスを確認させていただく。今から私が配るプレートに両手を押し当て『ステータスオープン』と唱えてほしい。そうしたら多少不作法ではあるが私に表示されたステータスを見せに来てほしい。ここまでで何か質問はあるかね」


こんなに張り詰めた空気の中質問をする勇気のあるやつがいるわけなく、シーンと静まり返る。

それを一瞥し確認したクレイブは後ろからプレートを抱えてきた兵士に礼を言い配り始めた。


「では、各自用意のできたものから始めてくれ。」


プレートを受け取ったものは一様に瞳をキラキラと輝かせながらプレートにおずおずと両掌を押し当て文言を唱える。

そこまで派手なエフェクトがあるわけではないので、多少がっかりしたような、しかし明らかに期待をにじませながらプレートをのぞき込む。


数字の羅列を眺めて、基準のわからない彼ら彼女らは周りと見せ合っている。

さて、俺も軽く手を触れさせて魔力を流し込んでプレートの表示をいじる。

元のステータスをうっかり常時でもしようものなら、個別技能と特殊技能で俺が前勇者だとばれる可能性が跳ね上がる。


「ステータスオープン」


軽く発光するプレートの表示を確認して満足のいくものになったところで両手を離しつまむ形で確認する振りをする。

なんかクレイブに見せるための行列が出来上がり、一人一人に優しい言葉と頼もしい、というような声をかけているのを視界にとらえながらちゃんと改ざんできているか確認していく。

俺がステータスの顕現を終えたのを確認したのか、柚姫がこちらに近寄ってくる。

今まで女子の友達と見せ合いをしていたのにわざわざこちらにどうだったか聞きに来る。

少し離れることを詫びていたはずなのに、中断させられた女子たちはこちらをすごい形相でにらみつけていたが、気にしない。

気にしたら負けである。


「あまねはどうだった?」


「いや、基準が分かんないから何とも言えないけど多分普通なんじゃないか?」


柚姫にプレートを見せながら、こちらもまた柚姫のステイタスを確認する。

さすがに、女子ということもあり少し低いが全体的にバランスの取れたステイタスだった。


「ふーん、やっぱり私よりは天音の方が上かー、どうするー?この世界の勇者様になっちゃう?」


「冗談じゃない、大体俺が勇者とか柄じゃなさすぎる」


万感の思いを込めて柄じゃないという。

すると柚姫は、少し考えたのちいたずらっぽい表情でからかい始めた。


「確かに、ボッチで根暗の天音に勇者は務まら維わよねー」


にやにやと笑いながら事らの出方を伺う柚姫

にイラっとして思わず言い返す。


「どっかの馬鹿力のゴリラ女も勇者なんて柄じゃないよなー?」


「なんですって!?」


とても懐かしく感じる言い合いを繰り広げながら、そういえばリアはどうだったかとあたりを見回す。

不思議なことに今日はまだ一度も見かけていない。

いつもなら呼ばなくてもすぐにそばに来るのに、不思議だななどと考えていると~前方から厳しい声がかけられた。


「おい、残りは君たちだけだぞ!」


慌てて声の主であるクレイブのほうにプレートを持って店に行く。

いつの間にかみんな見せるのは終わっていたらしい。

手早く済ませようとさっさと手渡す。


「フン、なんだこんなもんか、普通だな」


そう吐き捨てながら俺のプレートを眺めた後に柚姫

も確認を終えた。


さあこれで終わりだー、などと考えていると俺たちの後にもう一人いたらしい。

目を向けてみるとリアだった。

こちらを見ながらほくそ笑む彼女に嫌な予感、というか確信が生まれる。


もしかして、今日まだ姿を見せていなかった理由は!?


「ふむ、確認させてもらう。・・・・・・はッ?」


確認のためにプレートを持った手を震わせながら何度も数字を確認していくクレイブは顔面を蒼白にさせてわなないていた。


「れ、レベル999カンスト?!」


戦き腰を抜かしているクレイブと、得意げに胸を張っているリアがなんとも対照的だと、のんきに頭の片隅で思いながら、痛くなる頭を抱えた。

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