24-2話 絶望を超えて
リアと柚姫は、騎士に先導されながら薄暗い廊下を下っていた。
先ほど、王様から聞かされた遺体安置所に向かっている。
薄暗く湿った空気に、滅入っている気持ちがさらに沈んでくる。
「柚姫、しんどくなってきたら言うのじゃぞ」
半分ほど来たところでリアが一言も発さなくなった柚姫を心配して声をかけてくれるが、頭の中は普のことで一杯だ。
きっと、普が死んでしまったなんて何かの間違えで、きっとこれは少し普に似たそっくりさんの遺体で…
付き合いの少ない騎士たちには本物の普との違いが判らなかったに違いなくて、だから、きっと、きっと、きっと……
祈るように階段を一歩一歩と強く踏みしめながら歩いて行くと、ほどなくして一枚の扉の前で案内役の騎士が立ち止まり、二人に『こちらです』と言いながら、ドアに向かって手の平で指し示す。
騎士の動きに釣られるように、恐る恐るドアノブに手を掛ける。
ゆっくりと扉を開きながら、室内を眺める。
すると、石造りの部屋の真ん中に横に長い机が一台設置されている。
簡素な木のテーブルに白いシーツを敷いている。
ただの、簡素な木のテーブルだ。
そう、真ん中に置かれている二つのボール状のモノさえなければ。
入り口から動かない私に代わって、リアちゃんがテーブルに向かって歩き出す。
狭い部屋ということもあり、すぐにテーブルに辿り着いたリアは、躊躇いもなくシーツに手をかけ、めくった。
「やめっ!………ぁ」
シーツがハラリと床に落ちた。
代わりに出てきたモノを見て、私は言葉を失った。
首だ。
人間の。
いいや、普の。
頭には鋭い爪で抉られたような跡があり、頭蓋骨が中まで見えている。
それだけではない。
顔は半分近く焼け爛れており、なんとかギリギリ判別がつく程だ。
認識した瞬間、目の前がブラックアウトし体から力が抜けた。
気がつくと、いつもの天井が目に入る。
いつもの言ってもまだそんな慣れきったわけじゃないけど…
「あれ?私…」
前後の記憶が思うように思い出せず、首を捻る。
「さっきまで、何してたんだっけ?」
朝、集会があってなんか重大な報告を受けたことは覚えている。
けれど、その後の事から今起きるまでの記憶がすっぽりと抜け落ちていた。
集会が終わってすぐに部屋に戻ってきて、久しぶりの休日に昼寝をしてしまったんだろうか?
それにしては、何か重大な事があったような気もして……
1人ああでもないこうでもないと考えていると、ドアノブの捻る音が部屋に響いた。
「おお!起きておったか柚姫」
リアが起きている柚姫を見て嬉しそうに声を上げた。
顔色は良さそう、だったり体調を気遣うような事を呟いている。
「リアちゃん?私別に体調悪くないよ?」
不思議に思ってそう声をかけると、リアの顔が怪訝そうになる。
「何を言っているのだ?先程倒れたばかりではないか」
「え⁈私が倒れた⁈またまた〜いくらちょっとさっきまでの事が思い出せない私でも流石にそれは嘘だって分かるよ〜」
リアちゃんったら〜とふざけてみせるが、当のリアは何やら真剣な表情を浮かべていた。
「柚姫、落ち着いて聞いとくれ。普が死んだ」
「ちょっ、リアちゃん!冗談でも死んだなんて言っちゃダメだよ⁈あっ、もしかして喧嘩中?全く普はしょうがない奴だな〜ようし、ここはこの柚姫さんがガツンと言って来てやる!だから…」
「柚姫!」
話の途中でリアから抱きしめられた。
リアからの突然の抱擁に柚姫はびっくりして目を丸くする。
「リアちゃん?どうしたの?そんなに心配しなくても普くらい懲らしめられるよ?」
「違うのじゃ、柚姫。お主も薄々は勘づいておろう?普はダンジョンで事故に遭い……亡くなった」
その言葉を聞いた途端、目からボロボロと涙が溢れてきた。
「あれ?おかしいな私」
リアが腕にギュッと力を込める。
「う、ううわぁぁぁん!」
涙腺が崩壊した。
リアの細い腰に腕を回しわんわん声を上げて泣いた。
優しく背中をポンポンと叩かれて、更に涙が止まらなくなった。
しばらく泣いた後、ようやく落ち着いたリアと柚姫はベッドの縁に並んで腰をかけていた。
「落ち着いたかのぅ?」
「うん、ありがとうリアちゃん」
目尻の方に溜まっている涙を手で拭いながら答える。
「ねぇ、リアちゃん。私ね普の分まで頑張りたい。サクッとこの世界の人達を助けて元の世界に絶対に帰るんだ」
そして溜まっている漫画もゲームをやりまくるんだ、と少し冗談めかしてふわりと笑う柚姫は新しい決意と共に立ち上がった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
柚姫の部屋を後にし、自室のドアを後ろでにしめたヒマリアはぼそっと呟いた。
「すまんの、柚姫」
それは、これまでのこともこれから起こる事も全て知っている者の心からの謝罪だった。
裏切られた元勇者、再召喚されました⁈ 嘉月抹茶 @rta_36
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