8話 笑い話

パーティー会場に戻るとクラスメイト連中からの視線がすごく痛かった。


ついでに、大臣連中の視線も険しいものになっていた。

大方の予想はつく。

クラスメイトの奴らが俺の悪評を垂れ流すスピーカーと化したのだろう。


俺に厳しい視線を送っている大臣達の中に、俺を裏切って悪評というなのデタラメを吹聴しまくった奴もいて、異世界の大臣サマと10代の高校生が同じことをしているのを見て笑ってしまう。

お互い、良いことをしたつもりなのだろうがやられた方からすれば堪ったものではない。

居心地も悪いので部屋に戻ろう。


そこで、ふと考えついた。


このまま無言で後にしてしまっては、このスピーカーどもや大臣にまた話のネタを提供してしまうことになる。

今、散々馬鹿にして見下している奴がぐうの音も出ないほど完璧に退室したら、どうだ?

きっと良いあほヅラを拝める。


陛下の座っている玉座までスタスタと歩いていく。


周りの奴らが何事か、と嫌な視線と隠す気の無いつぶやきや囁きあいを交わしている。

「どうせまたなんかやらかすんだろ?」「あーやだね〜問題児は」「問題児はどこに行っても問題児」「うちらの品位を下げるようなことすんなよ」などなど言いたい放題だ。


「陛下」


片膝をつき、顔を下げて両腕を胸の前で交差させる。

そして、陛下からの返事を待つのだ。

それまで、けして顔を上げてはいけないと俺に教えたのは剣士だったか魔術師だったか…


「どうしたのだ、勇者よ。顔を上げるがよい」


「はっ、失礼いたします」


許可を得てからゆっくりと顔を上げる。

この時、背筋は伸ばしてゆっくりと最初は背から上げで最後に顔を上げるとすごく綺麗だと教えてくれたのは…


「今宵、このように立派な歓迎会を開いてくださりありがとうございます。しかし、私が居ると折角のパーティーの場を悪くしてしまうようです。今宵はこれにて失礼させていただいても宜しいでしょうか」


言葉は一言一言はっきりと発音。

ただでさえ玉座まで遠いんだからはっきりきっちりとした発音で、もごもご言うのはみっともないですよ!と言ったのは…


「うむ、良かろう。勇者よ、これからの働きに期待するぞ。今宵はもう下がるが良い、明日からの訓練に備えるように」


「はっ、この身には勿体無きお言葉、ありがとうございます」


スッと重たく見えないように立ち上がると、リアがスルリと腕を取り絡めてきた。


「では、妾も失礼するとしよう」


「う、うむ…しっかり体を休めるが良い」


しなだれかかりながらも女帝のような威厳を醸し出すリアに陛下は少したじろぎながらも許可をだした。


共にメイドをと申し出を受けたが、道は覚えておりますので、と断り廊下を2人で歩く。

完全に他人からの目がなくなった所で立ち止まる。


「ふっ、ふふふ…」

「ぷはっ、ははは…」


肩を震わせて笑い始めた。

最初は小さく吹き出す程度だったが徐々に笑い声が大きくなっていく。


「み、見たかアマネよ!あやつらの呆けた顔!」


「見たよ!あそこまで馬鹿面晒すとはな!」


お互いにヒーヒー言いながら、歩き出す。


「滑稽にも程があろう!しかも見たか?あの愚王の側にいたあやつの顔!あれは完璧にお主惚れられておったぞ!妾が腕を絡めた瞬間のあの顔と言ったら!ぷっふふふ」


リアが俺の腕を絡めとりしなだれかかったのは、半ば空気だった王女が俺が礼を述べた瞬間声をかけてこようとしたからだった。


「いやいや、惚れるのはあり得ないだろ〜ただ優しい王女様の演出しようとしたのに邪魔が入ったからあの般若みたいな形相してたんだろ」


「いやいやいや、何を言う妾の女の勘は当たると評判じゃぞ?あれは完璧ほの字じゃった」


「いやいやいやいや」


お互い笑いながら廊下を進む。


最初の復讐の相手は決まった。

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