16話 和気藹々と(?)

「ふあ〜」


大きなあくびを押し殺しもしないで、堂々としながら豪奢な廊下を歩く。

すると、ヒソヒソと道の端に寄った侍女たちが眉をひそめながら話していた。

耳を澄ましてよく聞いてみると、


「やあね、朝からだらしない」

「あちらの世界の親の顔が見てみたいわ」

「どうせ大した親じゃないからあんななんでしょ」


だんだん、耳をすまさなくても聴こえてくる陰口に、今度はあくびではなく溜息をつきたくなる。


これだから人間は


「言っとくが、俺の母さんはお前らよりよっぽど美人で常識があるぞ」


ヒソヒソ、してないけど

話している侍女たちの方を見ながら話しかける。

すると、聞こえてないと思っていたのか肩をビクッと震わせて目をきょどらせる。

まじか、あんだけ大声で話しといて聞こえないとでもまじで思ってたのか。


「も、申し訳…」


不承不承と言った感じで最後の方は聞こえないぐらいの声で謝る。


「悪いと思ってないなら謝らなくていいよ、心こもってないから」


言い捨てて、集合場所まで歩きだす。

ある一定まで離れると、またペラペラと話し出す。

聞こえてくる話の中に「マザコン」ってのが加わったな。

つか、あいつら懲りてねぇな

もういっちょお灸でも据えてやろうか?


「すまないね、彼女たちには後で言っておくよ」


階段を降りようとしたところで、上の階から声がかかった。

振り返ってみてみると、ブロンドヘアを肩口のあたりまで伸ばした優男が苦笑を湛えながら近づいてきていた。


「……いえ、大した事ありませんので、わざわざ殿下のお手を煩わせるまでもありません」


少し考えるふりをしながら、殿下と口にする。

本当は考えるまでもなく覚えている。

しかし、あまりにもサラッと答えてしまうと不審がられる。

そんなことを考えながら、少しの芝居を混ぜて挨拶を交わす。


「驚いた。僕は歓迎パーティの最初の方で挨拶しただけだから忘れられてるかと思ったのに」


本当に驚いた顔をしながら、頭をあげるように言い、更に言葉を重ねる。


「僕、自慢じゃないけど影がすごく薄いんだ。偶に来る大臣なんかは僕の事忘れて新人官吏だと思って指示を飛ばしてくる人なんかもいるよ」


みんな気がつくと顔を青くして慌てて謝ってくるんだけどね

と、苦笑しながら言葉を続ける殿下になんと言っていいか分からないと言った顔を作る。

そんな俺を見て、ふと笑顔を引っ込めると

ポツリと語り出した。


「……もとはと言えば、僕達の国の問題に君達を巻き込むのは反対だったんだ。自分達の国なんだから関係ない君達でなく僕らで解決するべきだと思うから」


内情を語るその顔は、本当に俺たちに悪いと思ってなければ出来ないくらいの苦悶の表情を浮かべていて、


「だから、せめて今日の演習も無事に帰って来て欲しい。そして、僕に出来る事なら何でも言って欲しい。必ず力になるから!」


まっすぐ真剣な眼差しで見つめてくる。

その顔は、とても嘘を付いているとも、その場しのぎの言い訳などではなく…


「殿下のお心遣いに感謝いたします。必ず無事に帰ってくると約束いたします」


恭しく頭を下げて、最敬礼をする。

すると、殿下は少し考えてからこう口を開いた。


「殿下なんてやめてくれ、俺の事はルノリックと呼んで欲しい。言いづらかったらルノでも良いよ」


「では、ルノさまと」


「本当は、様もいらないんだけどね」


満足そうに微笑み俺に近づいて来て手を差し出してくる。


「よろしく」


「よろしくお願いします」


差し出された手を握ると、グイッと腕を引かれる。


「改めてよろしく、


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