祝宴(第六十回 お題「祝う」)

 村から王の使者が去った後、祝宴は自然とはじまった。

 吉報をふたつも受けたのだから、当然のことだ。

 めいめいが持ち寄れた酒と肴は少なかったが、誰もが晴れ晴れとした笑顔だった。

 歌う者や踊る者がいるかと思えば、しみじみと酒杯を重ねる者、涙にくれる者もいる。

 感情の表し方は違うが、みな思うことは同じだ。

 この国が滅びる。

 十日前に生まれた世継の君は、父を害して国を滅ぼすと神託を授かった。

 なんと喜ばしいことか。

 いまの王は、別の国の王を弑して王になった。そんな王が害されてしかるべきだ。

 次の王は、きっと弑された王の忘れ形見、この村で匿う元の王妃さまが腕に抱く、きのう生まれたばかりのあの赤子だ。

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Twitter300字ss参加作品(2019年~2022年) 虚影庵 @kyoeian

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