今日も、雨(第五十四回 お題「雨」)

 僕は機械的に傘を差す。

 もう、降り続く雨をうっとうしいと思う気持ちはない。

 顔を洗って、髭を剃るのと同じ、機械的な動きだ。

 傘に雨粒が当たる音で、車の走る音さえも聞こえづらい。これもいつものことだ。

 僕は傘越しに空を見上げた。

 雲ひとつない、真っ青な夏の空が広がっている。

 前から歩いてくる人たちが、僕を見て、ぎょっとした顔をしたり、目をそらせたり、見なかったような顔をして、僕を避けるように通り過ぎてゆく。

 背後で、小さい子が「あのお兄ちゃん、ヘン」という声もする。

 あれもこれも、もう慣れた。

 僕の父親が、水神のお膝元だという水源地を埋め立てるプロジェクトに関わってから、僕たち家族の回りだけずっと雨が降っている。

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