生まれながらに不思議な力を持っていた少女。それゆえに疎まれた彼女は、雪と氷に閉ざされた『さいはての島』に捨てられてしまう。今にも消えそうな彼女の命を救ったのは、その土地に自らを封印していた、優しい魔物だった。
その魔物は、氷狼と呼ばれている。強大な氷の魔力を持つ彼は、決して人界に棲まうことができない。その力は、夏には冷たい雨を、冬には豪雪をもたらしてしまうから。彼はそれを望まない。彼は人間が好きだったのだ。
後に、少女には救いの手が差し伸べられる。彼女の力は特別なものであり、これからは然るべき保護が与えられるという。そして彼女は告げられる。あの『さいはての島』での出来事は忘れてしまえと。
それを断固として拒絶したとき、ある意味では彼女の、そして彼の〈生〉は始まったのだ。彼女たちが辿る道のりは、甘いものかもしれないし、苦いものかもしれない。楽しいものかもしれないし、哀しいものかもしれない。でも、それこそが生きるということ。そのあり方を想像してみることは素敵なことではないだろうか。ぜひ、彼らの行く末を、その目で見守ってあげていただきたい。
別れはいずれやってくる。
輝かしい時間の名残とともに、思い出を噛み締めるときがやってくる。
それこそが幸福の証明。その甘さは舌先に残り続け、その暖かさは氷った心を暖め続けることだろう。
凍てつくような白い闇を、孤独な少女は歩いていく。
ついに力尽き倒れ込む彼女を優しくすくい上げたのは、孤独という感情さえ知らない氷の獣だった。
ともすれば相手を破滅させる共依存になってしまいそうな危うさを秘めた展開でしたが、相手を思うからこそ別れを告げることができる。これって溺愛よりもはるかに愛だと思うんです。
寂しさと悲しさが手をつないで二人を会わせたんだ、なんて歌がありましたが、この話を読んでその歌詞が浮かびました。
哀しいままでは終わりません。
読み終えたとき、きっとこの冬の空気のように清々しい気分に満ちていることでしょう。
寒さ厳しいこんな季節だからこそ読んでほしい一作です。
これこそ異世界ファンタジーにおける模範的恋愛と言えるでしょう。
恋愛小説といえどもファンタジーなのだから、そこには現実とはかけ離れたまったく別の「異世界ならでは」の日常生活が在るはすなのです。それを活かしながらも、リアリティを壊す事なく読者の心をときめかせるような恋愛を描いてもらいたい。それが読み手としての本音でございます。
この作品は見事その期待に応えてくれました。
氷狼精霊センと一人ぼっちの少女が出会い、孤独に生きた二つの魂が互いを求める。なんと美しい物語でございましょう。氷雪の世界しか知らぬセンが、それでも少女を想い試行錯誤して彼女を助ける優しさ。彼女の将来を案じ、人の世界へと帰るよう勧める聡明さ。心を打つものがありました。そして同時に、孤独しか知らぬ者が己の不遇に気付きもしない侘しさがこの作品にはありました。
氷の牢獄で独り眠り続けるセンは、本当の意味で人間を好きになれるのでしょうか?
わずか六千字程度でありながら、ロマンあふれる異世界の小旅行へと誘ってくれる名作。
ファンタジー好きであれば、是非!
忌み嫌われ、疎まれて捨てられた少女と、人に危害を与えてしまう程強力な魔法を持った氷の魔物。ふたりは出会い、種族を越えて互いの孤独を埋めていく。
ふたりが過ごした時間は、魔物にとってみるとほんのわずかな時間だったかもしれない。でも、その時間は幸せだったのだろうと最後の場面が知らせてくれる。どんな風に人生を全うしたのか、きっと楽しい時を刻んできたのだろう、などと想像が膨らんでしまう。
残された氷の魔物は、再び孤独の中に沈むのでしょうか。いえ、その孤独を凌ぐほどの大きな愛で満たされているはずだと、そう思いたい。とても優しい愛に溢れた作品。