第三話
2・3体目のアンドロイドを殺し、タイムリミットの『二週間』までの残り時間は一週間となり、漸くアンドロイドのオリジンへの手掛かりを入手したジャックだった。
「後一週間でオリジンを見付け出すしか...けど、オリジンまで、後2体の記憶を辿る必要がある...か...」
ジャックは自分の事務所兼自宅の一室の壁に投射されたスクリーンと残りのアンドロイドの情報を睨み付けている。口に咥えられた煙草からは紫煙が上っている。
「チッ...24体からどうやって絞れってんだ。アイツの記憶の中にはそれらしいアンドロイドは映ってねぇし...やっぱり1機づつプチプチ潰してくのが正解か...?」
そこで自分の携帯端末に電話が掛かってきたことを報せる様に、机の上の携帯端末が震える。
「もしもし、こちら便利屋....ランディー! どうした!?」
「調べ終わったから電話掛けた。エイデンロボティクス社の依頼から今すぐに手を引け! ジャック!」
とても強い口調で言われたジャックは一瞬戸惑った。
「な、なんでだよ!? 下手したら戦争だぞ!」
「ちげぇよ。俺もお前も、アンドロイドの嘘に踊らされてる可能性が高い。スマン、逃げてる途中だから切るな」
「お、おい! ....切りやがった....」
(逃げてる途中だから...? まさか...クラッキングでもやったのか? エイデンロボティクス社の...? ....それよりも...嘘に踊らされてる?)
そこでジャックは2体目のアンドロイドが言っていたことを思い出した。
『お前は恐らくだが、間違った情報を植え付けられている可能性がある。お前が殺したアンドロイドは下の下。つまりはなんの機密情報も持たないし、間違った情報を持ってる可能性が高いアンドロイドだ』
(あいつもあんな事を言ってた...嫌な感じだなぁ...)
ジャックは煙草を灰皿に押し付け火を消し、もう一本の煙草を口に咥え火を着けた。
「はぁ...こんなときにお前が居りゃ....。なぁ...アル...お前に会いたいよ...」
机の上に置かれた写真立ての写真には今よりも若干若いジャックと綺麗な金髪が特徴な青年が写っていた。
─────────────────────
「なぁ、ジャック?」
「んだよ、アル。俺は読書に集中してるんだ、話し掛けないでくれ」
アルと呼ばれた青年は笑いながら言った。
「悪いな、ジャック。けどさぁ...こんな天気の良いピクニック日和の休日に籠って本を読むのもどうかと思うんだけどなぁ...俺はね? ジャックはどうなのさ」
相変わらずアルという青年は笑顔を絶やさない。ジャックも呆れたのか少し分厚い本をパタンと閉じる。
「んで、話ってなんなんだ?」
「あぁ、お別れを言いに来たんだよ」
「は?...なに言って...」
そこでジャックは気付いた「あぁ、これは夢だ」と。だから軍属時代の服なんか着て、懐かしい風景だと思えた部屋で読み飽きる程読んだ本をもう一度読んでいるんだ。と。
「最後に一つ。今回の依頼な? 恐らくだけどお前にとっちゃ辛い物だと思うけど...気張れよ、ジャッキー!」
青年はジャックの右肩を軽く叩いて笑う。そうして青年は消えていき、ジャックは現実に引き戻される感覚を覚えた────
─────────────────────
「アルフレッド!!」
目を覚まし、起き上がればそこは自分の家の寝室。いつの間にか寝ていたらしい。そして時計を見れば日は既に2日後になっていた。
「ったく...嫌な夢を見たもんだ」
(ジャッキーって呼ばれたの、何年ぶりだろうな...てか、二日も寝てたのか....)
ジャックの目にはうっすらと涙が流れた。
「クソ野郎が....アル...良いぜ、気張れってんならとことんやってやるよ。オリジンに辿り着くまでな!」
ジャックは再度、アンドロイドの記憶を逃走前の段階にまで遡った。
「あのアンドロイドには感謝しねぇとな。逃走前の工場に居て、逃走を指揮してるアンドロイドが端の方に映ってたぜ...けど、レコーダーがイカれちまいやがった...」
ジャックは記憶映像を遡っている間に吸っていた五本目の煙草を灰皿に押し付け、コートを抱えて部屋から出ていった。
─────────────────────
ジャックは現在、都市の中心部であるセントラルシティへとバイクを走らせていた。
「あの記憶に映ってた人物が逃走したアンドロイドのオリジン...」
路上にバイクを停めると、セントラルシティの更に中央へと向かう。
(アンドロイド含め、顔が解るならセントラルタワーのゼウスから探れる筈だ...)
──ゼウスとは...パノプティコンの全てを管理・統制しているAIの名前。ゼウスを使用しての人物探しは簡単且つ素早く終わるのが特徴のシステム───
ジャックがセントラルタワー内に入り、オリジンだと仮定した人物の特徴をホログラムキーボードで打ち込んでいく。
(金髪で短髪の壮年の男...まだ絞り切れないか...なら、アンドロイド。...良し、16人まで絞り切れた。これで...)
そこでジャックは動きを止める。セントラルタワーは先程まで人の往来があったにも関わらず、今では人は自分しか居ない。その事で動きを止めた。
「おいおい...裏切りかよ...ランディー...」
回転式の椅子を反対側に回転させれば、銃を突き付けてくる情報屋の仲間だった男が居た。
「仕方無いだろ...、俺は金で動く。善意じゃ飯は食えないぜ、ジャック」
「かもな。けど、お前がエイデンロボティクス社に味方するとはな」
ジャックは胸ポケットから煙草を取り出し、火を着けた。その時、ジャックはランディーへとウインクをすると、ランディーは相槌を打つように両目を瞑った。
「生憎と、彼はエイデンロボティクス社の仲間ではない。我々、ジェロニモファミリーの仲間ですよ」
ジャックはランディーの後ろから歩いてくる男に驚愕し、口に咥えていた煙草が口から落ちる。
「どうも、ジャック・クロスフォードさん。私は貴方が探していた...オリジンと呼ばれるアンドロイドです」
ジャックの顔は驚愕を隠せずに開いた口が塞がらない。更には汗が頬を伝う。
「ジェロニモファミリーのボスがアンドロイドとは....笑わせるぜ。アンドロイドごときに組織を統治出来るとでも? 昔の王様にこんな言葉があるだろう? 『君主は君臨すれども、統治せず』ってな。意味は変わっちまうが、お前は正しくそれだよ。お前はボスとしてとても優秀だろう。けどな、アンドロイドじゃ君臨する事は出来ても、組織全体を統治...支配する事は出来ねぇんだよ」
ジャックはなんとか冷静さを取り戻し不敵な笑みを浮かべながら椅子から立ち上がる。
「フ....フフフ...フハハハハ!!! 私が君臨する事しかできない? なら何故、逃走したアンドロイドは私の事をオリジンと呼ぶ?」
オリジンはランディーから銃を奪い取り、ジャックへと向ける。ジャックはオリジンが図星を突かれたのか、声に若干の焦りが有ることを感じ取った。そして、最後に一言。
「引けよ。その引き金を、引けるもんなら引いてみろ。ここで引けなきゃ俺の言ってることが正しいと認めると同義だぜ?」
ジャックは是が非でも自分のフィールドに持ち込みたかった。アンドロイドには無し得ないであろう『心理戦』。人間であるジャックとアンドロイドのオリジンには決定的な差が存在していた。
「死ね! ジャック・クロスフォードォ!!」
オリジンが引き金を引くも弾丸はジャックを捉える事は無かった。
「それが、お前と俺の差だ!」
一瞬で間を詰めたジャックはオリジンのネクタイを掴むと背負い投げをした。ドンッ! と鈍い音がジャック達を除く、無人のタワー内に響く。
「人間は...人間は他人も自分も疑うし信じる。けどな...アンドロイドは...お前は自分しか信じねぇ...! それがお前が君臨しかしねぇ君主の理由だ」
ジャックはホルスターからハンドガンを取り出し、そのまま発砲。オリジンの心臓部をジャックの弾丸が貫いた。
「オリジンの記憶回路...頂いたぜ!」
ジャックはそう言って座り込む。
「ったく...急に『信じろ』だなんてなんちゅう博打打ちやがる。俺が解らなかったらお前の脳天に風穴開いてたんだぞ?」
「けど、解っただろ? だから頷く変わりに両目を瞑ったんだろうが」
ジャックは立ち上がり、ハンドガンをホルスターに仕舞う。
「外にゃアンドロイドがわんさかいるぞ? どうすんだ?」
「真正面から潰す...だろ。ランディー?」
リボルバーを2丁拳銃で持ち、入り口へと歩いていく。そのジャックの後を追うように、ランディーもハンドガンを握り直し、歩き出す。
「さぁ、アンドロイド野郎共...IT'S SHOWTIME!!」
ジャックは扉を蹴破り、しゃがむと両手のリボルバーで四体のアンドロイドを撃破する。ランディーも負けじと一体づつ、冷静に処理していく。
「久し振りだぜ、こんなに銃を撃ったのはよ」
「ランディーも少しは撃てよ。俺ばっかりじゃねぇの!」
弾が切れたリボルバーをホルスターに押し込み、ハンドガンを抜いてアンドロイドのあたまを撃ち抜く。
「ランディー!?」
「んだよ、ジャック!」
「残りは何体だ!」
「さぁ?10体位じゃねぇの?!」
そんな会話をしながらも、二人は確実にアンドロイドを始末していく。
「アイツで最後か...」
ジャックはハンドガンを仕舞い、リボルバーの弾を一発だけ込めた。
「これが外れたら逃がしてやろうぜ。どっちに賭ける?」
「外れるに賭ける。絶対に当たらねぇ」
ジャックはゆっくりとアンドロイドへ照準を合わせた。
「人生楽しまなきゃそんだぜ、ランディー? 俺は当たるに賭ける」
そして引き金を引いた。結果は弾丸は発射され、アンドロイドの頭を吹き飛ばす。その後、ジャックはリボルバーを回転させながら言った。
「JACKPOT!」
「ったく...殺し合いに良く賭けなんてやろうと思うよな...お前」
「そりゃ、面白く無いだろ? ただ敵を殺すだけなんてよ」
ジャックはそう言って、自分のバイクが停めてある路上まで歩いていく。
「ジャック」
「んだよ、ランディー」
二人の間に妙な緊張感が走る。
「これで終わりなのか?」
「さぁ? けど、このオリジンの記憶映像を見てみないことにはなんとも言えねぇよ」
ジャックはそう言ってゴーグルを付ける。
「だよな。じゃあな、ジャック。なんか解ったら連絡くれよ!」
「おう!」
そうしてジャックは自分の家へと、バイクを走らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます