第二話
依頼を受けた翌日。相変わらず、裏社会ではドラッグの取引から始まり、殺しや売春・人身売買などが蔓延る。そんな中、ジャックは珍しく表社会に出ていた。
「ここが...エイデンロボティクス社か。相変わらずデケェな」
普段はボサボサで伸ばしっぱなしの髪もしっかり直し、後ろ髪も結んでいた。ボロボロのトレンチコートやヨレヨレのスーツも下ろし立てのスーツに着替えている。
「すみません。記者のミニッツ・ランドバークです。逃亡したアンドロイドについて詳しくお聞きしたいのですが、お時間ありますか?」
社内に入っていき、エントランスで声を掛ける。
「はい、大丈夫ですよ。それでは、ご案内致します」
ジャックはそのまま受付嬢に着いていき、エレベーターに乗る。
「珍しいですね。今更、逃亡アンドロイドについての記事を書くなんて」
「確かに今更かもしれません。ですが私は、謎をとことん追う主義なんですよ」
ジャックはバレない様、冷静に返答する。受付嬢はそれ以上は追及することはなく、黙り込んだ。
(取り敢えず侵入は出来た。後は怪しい点を突いていこう)
目的の階に着いたらしく、エレベーターが止まり、長い廊下を歩く。
「こちらの部屋でお待ちください」
受付嬢に案内され、小さい会議室で待つことになった。
それから五分位で人がやって来た。
「貴方が記者のミニッツ・ランドバークさんですね」
「はい。今回は逃亡したとされるアンドロイドについてのお話をお聞きしたく...」
「えぇ、聞いていますよ」
そこから二十分程、話をしていた。
(解った事と言えば、逃走したアンドロイドは全てが新型のアンドロイドだと言うことと、そのアンドロイドには既存のアンドロイドと違い、人間の命令に従わず、自分の意思で行動出来るってことだけか...まぁ、そこそこの収穫だな)
「それでは、今日は貴重なお時間を割いて頂き、ありがとうございました」
ジャックは立ち上がろうとしたときに、背中に殺気を感じる。
「記者のミニッツ・ランドバーク....そんな人間は存在しない。貴方が来てから調べましたが、貴方が言うミニッツ・ランドバークは既に死去しています。貴方はいったい何者ですか?我が社に何の用です?」
(やっべぇ...バレてやがる)
後ろを見れば、拳銃を向けられており、質問に答えていた男性はゆっくりと近づいてくる。
「大人しくしておくのが、身のためですよ」
「生憎と俺は大人しくするのが苦手なんだよ!」
ジャックがコートの袖から小さい拳銃を滑らせ、握る。向けられていた拳銃に向けて発砲し、相手の拳銃を吹き飛ばす。
「それでは。ありがとうございました」
ジャックは窓ガラスを突き破ってそのまま飛び降りる。その際に腰のホルスターに納めておいたワイヤーガンを壁へ打ち込むとそのまま落下していき、地面へと着地する。
「あっぶねぇ...ワイヤー切られたら終わりだったな」
ジャックは髪を結んでいたゴムを取りながら、走り出す。
「しっかし、自我を持ったアンドロイドなんて作って何をしようってんだ...?」
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偽名を使っての取材から二日後。情報屋のランディーからの話で、目当てのアンドロイドの一体が見つかったとか。
「まさか、表社会で医者をやってるとはな...驚いた。だが、これで殺す前に裏の話を聞き出す」
「ジャック・クロスフォードさ~ん」
自分の順番が回ってきた様で椅子から椅子から立ち上がる。受け付け時に最後でいいと伝えた為、他の客は居ない。
「ジャックさん。今日はどうなさいました?」
「ん? あぁ。あんた...アンドロイドなんだろ? エイデンロボティクス社から逃げ出した新型アンドロイド27体の内の一体。型番はPXA-006」
それを聞いた途端に、アンドロイドは逃げ出そうとするが、ジャックの方がリボルバーを抜くのが速く、脚を撃たれてアンドロイドは倒れ込む。
「受付の奴は来ないぜ? 殺しといた。邪魔だからな。...んで、なんで逃げ出した。いくら自我があるとは言え...何があった? 裏に何がある?」
ジャックはリボルバーを突き付けながら質問する。
「私達、新型アンドロイドは本来なら兵器としてこの都市の軍隊に配備される予定だった。けれど、本来の目的はそうじゃない。奴等は裏社会と表社会を根底から覆そうとしている...」
「言ってる事が解らねぇよ....」
そのアンドロイドの人工血液も少なくなってきたのか、今にも死にそうだった。
「裏社会の巨大マフィアに私達、新型アンドロイドで焚き付けて表社会と裏社会での大規模な戦争を起こすつもりなんですよ...エイデンロボティクス社は...。裏社会のマフィアは元は傭兵や軍人の集まりだと聞きます。しかも裏社会ならば、武器も軍からの流れ物や古くてもまともな物が流通している。そんな状態で戦争なんかが始まってしまえば...この都市が滅ぶ。後、二週間以内に私達を全員殺してください。プログラムで裏社会を襲うように設定されています。そのプログラムは解除することは出来ませんでした。後は任せましたよ....ジャック・クロスフォード....」
そうして新型アンドロイドの一体は機能を停止した。
「オメェの言ってる事が正しいなら...確かにこの都市は滅ぶな。だがよ...政府の御偉いさんも裏社会は裏社会としての活動を認めている筈だ。表社会に厄介を持ち込まなければ表社会に出ることも出来る...それに加えて裏社会と表社会で条約が結んであった筈だろう....? なのに何をしようってんだ....」
ジャックはそのまま外へ向かい、ランディーへと電話を掛ける。
「ランディー?!」
「どうしたジャック? んな焦って。それより殺せたのか?」
ランディーはいつも以上に意気揚々としており、ジャックは焦りを覚える。
「あぁ...殺せたよ。裏の話も解った...」
「なんだったんだ?」
「....表社会と裏社会の抗争だ。いや...抗争よりも大きい戦争になっちまうかもしれねぇ...」
ジャックはなんとか声を絞り出し、ランディーに話す。
「それって本当なのか?」
「あぁ...あのアンドロイドが言ってたんだぜ?信憑性は確かだ」
「それが本当なら...不味いぞ!」
「解ってるさ! 解ってる....!」
ジャックはとてもスケールの大きい話だったことを知り、憤りを覚える。
「いや、抗争の話も不味いが。今、裏社会が軍からの流れ物で最新鋭の兵器が裏社会最大のマフィア....ジェロニモファミリーに渡ってた筈だ」
その言葉にジャックも顔を歪ませる。ランディーはそこから更に、質問を続けた。
「期間は...?」
「『二週間』だそうだ。一体を見つけるので二日掛かった。後、26体を二週間で見つけ出して殺すのは不可能だ!」
「あぁ...本当にゲームオーバーだな...」
ジャックが必死な事はランディーも解っていた。お互い、表社会には大切な想い人がいる。その人たちが死ぬかもしれないと、そう考えただけで、背筋に冷気を感じ、背後に死神の鎌が見えてくる。だが、ジャックは何かが引っ掛かった。
「なぁ...ランディー? この事について調べてくれねぇか?」
「なんでだよ...? 意味無いだろ?」
「いや、なんかが引っ掛かるんだよ。なんで作った直後じゃなくて時間的な猶予を設けた? なんで27体なんだ? 戦争おっ始めるならもっと必要だろ? それに、あの会社の中には自律モデルのアンドロイドは既に実用段階で試作型なんて物が必要ないのも確定だ。なのに試作型みたいに少数しか...」
「解ったよ...、調べてみる。エイデンロボティクス社の社員一人一人の家族構成から何から何までな。言われてみれば違和感満載だしな。他にも何か解ったら連絡くれよ」
ランディーも乗り気になったのか、そのまま電話を切った。
「さて...俺も残りの26体を殺しに行くかな」
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そこから数時間後、ジャックは都市の中でも片田舎の地方に来ていた。
「ここに二体が潜伏中...か」
ジャックは殺したアンドロイドの脳から記憶データの入ったチップを抜き取り、そこから居場所を割り出した。バイクを吹かし、更に加速させる。
「こんな納屋みてぇな所に住んでんのか? うへぇ...隠居生活もここまで来ると哀れだな」
ジャックはバイクから降りると、周りを見渡す。
「特に何も無いな...いや。何も無いのが逆に怖ぇけど」
そしてジャックはホルスターからリボルバーを取り出し、2丁拳銃で構える。納屋の扉を蹴飛ばして中に入るも薄暗く、藻抜けの空で天井近くの窓から光が差し込んでいた。
(居ねぇ...訳ねぇよな?)
そして後ろから物音が聞こえ、振り返り様に何発か発砲する。
「材木? トラップかッ!?」
そして後ろから何者かに蹴られ、リボルバーを手放した。
「新型アンドロイド26体の内、一体見っけた!」
倒れ込む前に、ロンダートの要領で相手の方を向いて着地する。
「貴方は何者ですか?」
「殺し屋のジャック・クロスフォードだ。てめぇらを地獄に叩き落とす処刑人って事で。よろしくな」
(リボルバーは扉の近くまで飛ばされちまった...ハンドガンか高周波ブレードのどっちかだな...)
「26体...? では誰かを殺したと言う事ですか?」
「あぁ...表社会で医者をやってた奴をな」
それを聞いた途端にアンドロイドは形相を
変えて突進してくる。
(ハンドガンじゃ近すぎて抜けねぇ...! 高周波ブレードで行くしかない!)
そうしてジャックは腰にぶら下げた日本刀を勢い良く振り抜く。雷を纏いながら抜かれた刀はアンドロイドの首へ目掛けて振るわれた。
「たかが刀...鉄屑に私達、アンドロイドを斬れるとでも?」
「高周波ブレードなんだよなぁ...これがよ」
アンドロイドに軌道を変えられるも、そのままブレードを振り抜き、アンドロイドの片腕と片足を切断した。
「んで? なにを隠してる?」
「隠しているとは何の事だ?」
「まだ惚けるか? 表社会と裏社会の戦争についてだ」
その話をした事でアンドロイドの表情が変わる。
「お前は恐らくだが、間違った情報を植え付けられている可能性がある。お前が殺したアンドロイドは下の下。つまりはなんの機密情報も持たないし、間違った情報を持ってる可能性が高いアンドロイドだ」
アンドロイドの言葉にジャックは疑問を持ち、アンドロイドに問い掛ける。
「聞くが、なぜ同時に製造されたであろうお前らにそんな優劣が存在している?オリジンは誰だ。何が『正義』で何が『悪』だ?」
ジャックの問い掛けにアンドロイドは大声で笑った。
「野暮ったい質問だな? 『何が正義で何が悪か?』さぁな? けど、良いことを教えといてやるよ。オリジンは、俺の記憶回路を辿って二人位殺せば割り出せる。アンドロイド殺しで全員を潰すのもそりゃ良いが、時間が無さそうな顔してるぜ? あぁ、もう一体は...もう死に損ないだぜ...?」
アンドロイドはそう言って、自ら進んで機能を停止させた。
「もう一体が....死に損ない...」
ジャックはそうしてそのアンドロイドから記憶回路を引っこ抜いて納屋を飛び出した。
「死に損ないのアンドロイド....この村に入る前に晒し者になってた奴か...!」
バイクに跨がり、勢い良くエンジンを吹かし、村の入り口まで戻ってきた。
「これが...アンドロイド...?」
見るも無惨な姿でジャックは一瞬、目を反らす。四肢は大昔に使われていたと想像出来る粉砕機で砕かれ、砕かれた四肢からは白い人工血液が滴っていたであろう染みが地面に出来ている。顔面の形は元々の整ったアンドロイド顔とは離れていた。
「無惨だな...」
ジャックはそれだけ言って先程と同じ様に、アンドロイドから記憶回路を引っこ抜いた。
帰り道──ジャックの目は、どこか寂しげで、悲しそうな目をしていた───
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ジャックの乗っていたバイクですが、YAMAHAのV-MAXを想像してください。
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