第十二話
自身の専用機を作ってからというもの。色々な戦場を渡り歩き、5桁を越える人を殺した...。
結果として、ジャックは戦場で『
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「ジャッキー。どうよ、そっちの戦場は」
「ん? いや、良いとは言えねぇな。俺が出張って漸く勝てたって感じだしな...周りの戦力がこっちに追い付いて来てやがる」
アルの問いに、ジャックはパワージャケットを脱ぎながら言葉を溢す。
「お前の所もか...こっちもだ。俺ん所もだぜ...」
軍服に着替えた二人は上官室へ報告へ向かった。
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「それで? アースボルト中尉並びにオーグナイス大尉。報告を聞こう」
上官がそう言うと階級が上のアルフレッドから報告を始めた。
「それでは、アルフレッド・デュナイル・オーグナイスが報告します。私が指揮する東部方面は死者が256人、負傷者が軽傷56人、重症が78人。合計して390人が死傷者になります」
「それで、戦果は?」
上官の淡々とした声に室内が凍り付きそうになる。アルはなんとか声を絞り出して答えた。
「...戦果は勝利です。大勢の死傷者に報いる戦果を残せたかと...。ですが、東部方面はまだ終わった訳ではありません。残留兵がまだ...」
「それで勝利って言えるのかい? 僕は君達に殲滅を命令した筈だ。まぁ、良いや。その残留兵の殲滅、君達の隊は関わらなくて良い。アースボルト中尉に受け持って貰う」
上官の言葉がアルとジャックを襲った。
遠回しにアルは使えない。ジャックには死にに行けと言っている様なものだ。
「...了解しました。...引き続き、アースボルトが報告します。我が隊の戦果も勝利。死傷者は軽傷者75人のみ。残留兵も我が隊の兵士が殲滅したと先程、報告が入りました」
「そうか...君は大尉に昇格。...アースボルト大尉、期待しているよ。そして早速で悪いんだが、オーグナイス大尉の報告通りなら残留兵がいる。その残留兵の処理を君に命令する。さぁ行きたまえ、時間は有限だ」
ジャックは上官の言葉に従って上官の部屋を出ていった。後を追うようにアルも出てくる。
「お、おい。本当に行くのか?! 無茶だ、連戦続きなんだぞ。お前、死んじまうぞ!」
「構わない、命令だからな。それに、その残留兵が他と合流して相手の戦力を増やすのも愚の骨頂だ。それはこの戦争が長続きするって事だ」
アルの制止を聞かずにジャックは進み続ける。
「聞け! テメェのツラァ見てみやがれ! なんてツラしてやがる! それは人を殺す事に馴染んじまったヤツのツラだ!」
「うるせぇ! テメェのケツ位テメェで拭けって話なんだよ!」
アルに胸ぐらを掴まれたジャックは怒りを露にして吠える。
「お前。俺に散々、青いだの説教垂れといて今更これかよ! お前は俺よりも青い! いつかはこういう時が来るんだよ。覚悟を決めとけ、アル」
ジャックは胸ぐらからアルの手を引き剥がすと歩いて行った。
「お前にだけは死んでほしくねぇだけなのによ...なぁ、ジャッキー...」
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「お前ら、覚悟は良いか? 俺らは今から東部方面の残留兵の処理を行う。何か質問は」
ジャックが率いる部隊のミーティングルームでの会話。
ジャックは空間ホロディスプレイに投射されたマップをポインターで示しながら説明していた。
「あの~...その残留兵の人数って具体的に何人なんスか?」
「知らん。だが、残留兵って事はそんなに多い人数では無いと思う」
「そうッスか~...面倒ッスね」
飄々とした金髪の隊員がぼやく。ジャックもその気持ちが解るからか、溜め息を吐きながら話を続けた。
「ハァ...今回の作戦はハードになるぞ。それでも来る奴は、俺と一緒に来い。来なくても咎めはしねぇよ。所詮、尻拭いだからな」
ジャックはそう言ってミーティングルームを出た。その後、武装保管庫に行き自身のアーマーを装着して後ろを振り向く。勿論そこに人は居ない。
(来るわけねぇか...そりゃ、そうだよな。尻拭いに付き合わされちゃ堪ったもんじゃねぇよな)
「うし! 行くか」
ジャックが歩き出した時に後ろから声が聞こえ、そこには、準備を終えた自分の隊員が居た。
「待って下さいよ、隊長。独りでいくつもりスか? 俺らもいくッスよ。俺ら、隊長の為に命使うんで」
「そうか...なら行くぞ」
ジャック達は戦う為に、戦場へと赴いた。
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「戦況はどうだ?」
「残留兵の奴等、意外とやり手です。こちらの死傷者は未だ0ですが、それも時間の問題かと」
隊員の一人の報告を聞いたジャックは、さも当たり前だと言いたげな顔で命令を下す。
「だろうな。あの残留兵ども、思いの外良い装備使ってやがるからな。...しゃーない、一旦兵を下げて補給させろ」
隊員はジャックの指示を聞いて困惑する。
「で、ではその間、誰が前線を支えるんですか!?」
隊員の問いに対してジャックは立ち上がって左手首を右手で掴み、手首をゴキッと鳴らすと堂々と答えた。
その時、ジャックは内心で自分を嘲笑った。出来る筈が無いと。だが、やってのけなければ皆が死ぬ。そんな話だった。
「俺が独りで前線を支える。文句はねぇな? 例え、文句があったとしても受け付けねぇぞ」
「む、無茶だ...。そんなの無茶だ!」
「無茶でも無謀でもやらなきゃならねぇ、退いちゃいけねぇ時がある。それが今だ。全員の補給が済み次第、それぞれ元の担当場所に向かわせろ。俺、独りじゃどこまでカバー出来るか解らねぇからな」
ジャックはそう言って仮設テントから飛び出した。
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「クソッ...やっぱり俺独りじゃキツいな...。煙草辞めときゃ良かったぜ」
ジャックは木に寄りかかりながら自身の愛銃であるラピッドバレッティアP9・カスタムをリロードしながら悪態を吐く。
頬から流れる血も、罅が入った骨も、折れた骨も、腹部に刺さった破片も今のジャックにとっては些細な問題である。独りで広範囲での戦闘を自分自身で強いたのだから、怪我の一つや二つは承知の上だった。だからこそ、一休みの煙草が欲しい反面、体力の衰えを感じる。
そして、リロードが済んだと同時に木の影から飛び出して、走り抜けた。
「うし! 行くか!」
弾丸が飛び交い、硝煙の薫りと人の死の臭いが鼻に纏わり付く。正直、噎せ返りそうだ。そんな中でもジャックは果敢に戦っていた。
トリガーを引けば自身の愛銃のマズルが火を吹く。
飛んでいく弾丸は敵兵の命を刈り取り、着弾地点を抉る。それと同時にエジェクションポートからは真鍮色の空薬莢が宙を舞う。
塹壕を見つけ、弾丸の雨を掻い潜り、塹壕から顔を出した。見れば少年兵や新兵ばかり。彼らにはジャックは悪魔に見えただろう。
「ヒィ! ふぇ、フェンリル!!」
「よぉ、地獄で俺の仲間の靴にキスして来な! クソ野郎共!」
ジャックの声は敵兵からすれば死そのものだ。愛銃から放たれた弾丸は無情にも命を奪う。
相手は死の直前、何を思っただろう。家族・恋人・友人・仲間...数えたら切りが無い。
「ハァ...ハァ...後、何人だ...?」
肩で息をするジャックはその場に座り込んで、煙草を出し掛けた。
「おっと...しばらくは禁煙するんだった...」
「隊長! 御怪我は!?」
ジャックが煙草を仕舞い直すと、補給を終えたジャックの部下の一人が駆け寄ってくる。その表情はとても焦っていた。
「安心しろ、骨が少し逝ってるだけだ。救護班の所ぉ行ってくる。後は頼んだ」
「ハッ!」
ジャックは部下に指示を出してフラフラとした足取りで救護班の所へ歩いて行った。
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「すんませーん...添え木と包帯貰えますかー」
パワージャケットを脱いで野戦服に着替えたジャックは救護班のテントの中に入る。
「ん? どうしたの」
「えっと...骨やっちゃいまして...」
救護班の一人にそう答えた。ジャックは常にどこかしら怪我を負う為、救護班の面々には頭が上がらない。救護班の面々がいなければジャックは今頃、病院のベッドの上だ。
「どこを折った。足は歩けてるから折れてないな、腕か? 肋骨か? それにお前、腹に榴弾の破片が刺さってるじゃないか。そこのベッドに横になってろ。すぐに摘出手術するから」
「えぇ~。手術すんの? 俺、痛いの苦手なんだけど」
救護班の医師にそう言われ、若干引き気味のジャックだが押しきられ、仕方無くベッドに横になる。
「さて、まずは折れた骨の処置だな。右橈骨に左尺骨、肋骨の左側上から三本が折れてるな。さらに両方の上腕骨に皹とは...無茶し過ぎだ。ちゃんとした設備じゃないからなんとも言えないが、大腿骨も皹が入ってるぽいぞ? ここもそろそろ終わりそうだしこのまま都市の病院に搬送しようか?」
「いんや、腹に刺さった破片抜くだけで良いよ。後で送って貰うさ。報告もしなきゃならないし」
「了解した。本当に病院行けよ? これ以上は本当に兵士として戦えなくなるぞ」
医師の忠告にジャックは重く頷いた。
「隊長! 終わりましたよ!」
「OK。手術終わったらそっちに戻る。帰投準備しとけよ」
ジャックはそう伝えて目を瞑り、意識を手離した。
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結果として、掃討任務はジャック一人の軽傷だけで済み、成功に終わった。
「アースボルト大尉、ご苦労様。帰ってきて早々で悪いんだが、近々また大きな戦争が起こる気がしてね。その戦争に君とオーグナイス大尉の部隊も参加して貰いたい」
上官がそう言うが、ジャックは断るつもりでいた。いやそれどころかジャックは軍人を辞めるつもりでいた。自分の怪我が思ったよりも酷い事が原因で、医師からはこれ以上の無茶は身体を壊す。既に半壊状態だと。一年は休養すべきだと言われ、隠匿生活も悪くないなと思い始めていた。
だが、ジャックはその事を伝えられずに、作戦の参加を了承した。
「了解しました」
「下がりたまえ、君は無茶が過ぎる。一度医者に見てもらってこい」
ジャックはもう行ったんだよなぁと思いながら了承して上官室から出ていった。
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夢を見た。懐かしい風景だった。一家虐殺後、引き取られた家でのささやかな思い出。
木漏れ日の中、穏やかな風に吹かれて眠る。それを初恋の女の子に起こされて、風邪を引くと怒られる。
そんなささやかな思い出も塵になり消え去っていく。
抑揚の無い単調な電子音でジャックは目を覚ました。
「ん...夢か...目覚め悪ぃな」
大規模作戦の当日。ジャックはいつもと変わらずにベッドから抜け出す。
目の前にはデザインを元に戻したロングコートタイプの軍服が壁に掛けられていた。
「とうとう今日か...気合い入れねぇとな」
カーテンを開けて外を見れば既に他の部隊は準備を進めており、忙しなかった。
空を見上げれば今にも雨が降りだしそうな灰色、そこで我に返り、ジャックは身支度を進めた。
「うし、行くか」
軍服を羽織って扉を開けると見慣れた風景がそこにはあった。自分の部隊の隊員とアルの部隊が揃って自分が出てくるのを待っている。
その風景がジャックには微笑ましかった。
「オセェよ、ジャッキー。もう少し早くしろよな。他の隊は準備始めてんだからよ」
「隊長! 我々全員、覚悟は出来ております! 命令を!」
アルと隊員を仕切っている一人がそう言う。呆気にとられたジャックだが、少し笑って命令を出した。
「命令は三つだ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。這ってでも俺らはここに帰ってくる。帰って明日を迎えるぞ!」
ジャックの言葉に全員が応えた。これが最後の戦いであると、そう自分に言い聞かせる様に──────
───最後の戦争が、今始まろうとしていた───
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