探偵と不毛のネットバトル 2/5

「それで、その……」


 この件に助力をとは、即座に言い兼ねた。

 圧倒的不利。巻き返したとして、あるのは不毛。


 「嫌だね」


 友人は即答だった。


 「要は同類だろう」


 またもや、容赦のない言葉。


 「派手な自撮りを行う未成年を庇う輩たちと、仲間の常習的虚言者を庇う輩たち。建前の大小はどうあれ、はた目には立派に同類さ。あるいは、君もお仲間かい?」


「いや、僕は……」


 「まあ仮にだよ、万が一これから何かやる気になったからと言ってだ、嘘つきのためでも依頼人のためでもないこと、それは忘れないでいて欲しいね」


 いまはまだ気が向かない。

 ひとまずは、そう受け取ることにした。


「助かるよ」


 「助けになるとは思えないがね」


   ・


 数日後。


『ひとまず掲示板に画像を張った』


 依頼人からの連絡に、僕と友人はその場所を確認する。

 石ころ並の武器でもいいから、ともあれ投げる気になったらしかった。

 掲示板のURLを見ると、なるほど、確かに画像へのリンクが張られている。


 「素人だね。ドを100個つけてもお釣りがもらえない、それどころか全然足りない」


「これで何か問題が?」


 「張ること自体は問題じゃないさ。こう言う場所じゃ、誰が張ったかなんて明言でもしなければわからないんだ。でもそんな機会そうはない。だから誰が張ったか分からず、何があるかも知れない。そんなURLを、ノコノコと君は踏むのかい」


「……踏まないね」


 「間抜けが踏む。間抜けは間抜けなりに画像が何かを察し、これは危ないぞとわざわざその場で書き込んで報告してくれる。その報告が何故か連鎖し、ついには相手を追い込む。恐ろしいね、恐ろしく気長だ。気長すぎてとっくにこの件を忘れてそうだ。つまり、この張り方じゃ無意味なんだ。もしやるなら、リンク先の画像が直接表示される場所にUPするんだね」


「この内容、伝えてもいいかな」


 「そのことは止めないがね。しかし君、はっきりとこいつは無駄骨だぜ。この程度のレベルで誰かとやり合うの、ハイハイ歩きの赤子を世界一周させるようなものさ。それもいい歳の赤子と来る、可愛げすら無いだろう」


「うん、覚えておくよ……」


 「覚えるだけじゃなくて、今すぐこいつとも縁を切るべきと思うがね。純粋に能力だけを見るなら、君が組むべきはこの相手の方だよ。まあ、こいつの投稿を見るんだね」


   大井川が女子高生ファンを可愛がり(わかる)→

   やがて派手な自撮りを煽るようになり(まあわかる)→

   そこで死ぬほどヤケになった大井川が(?)→

   ツイ文芸部総出の花火で有耶無耶にしようとした(???)


「リンクが張られるでもないし、単なる投稿に見えるけど」


 「いや、これはなかなかのやり口だよ。あくまで君曰くのだが、君の味方とは大違いだ」


 もう一度、投稿を見る。

 僕には本当に、何気ない投稿に見える。


「済まないけど、解説を頼めるかな……」


 「まず、今やっているネットバトルという奴、これは個人によって把握していることが全く違う上、全体像を把握するのも著しく困難だ。数ヶ月経てば忘れる類のしょうもない出来事に、仔細な記録係がつくことはほぼ無いからね。この大前提をおさえた上で、こいつは的確にそこを突いてるんだよ。審判も記録係も不在のところに、自分からその役を買ってみせてるのさ。最初の内は本当だが、後の方になると言ってもいないことに疑問符をつけ、自分の正当性を演出してる。雑魚を大げさに叩く、一種のワラ人形論法って奴だね。そして面倒事でも最初の方なら、まだ何とか追える人間は多い。そこで書いていることが本当なら、後の方もそうと信じたくなるのが人間というものだ。手慣れたものだね、一朝一夕で身につくものじゃない。短期間で身につけたのだとしたら、それはそれで大した才さ。もっとも、この手の煽動にしか使えない技術だが」


 僕は驚いていた。

 真偽をはっきり言えるからには、この短期間に全体像を把握したことになる。

 それはつまり、各人の投稿を読んだと言うことなのだろうか。

 あまりに雑多な、気の遠くなる量の文を。


「いや、そこまで分からなかったな……」


 「リンクを張るなんてまどろっこしい真似も、こいつはしてないだろ。分かってる奴と、全くダメな奴の違いだよ。まあ誰しもに察されるようじゃ、真に手練とは言えないからね。こいつは邪悪だ。しょうもない悪事をもみ消すため躊躇わず一人追い込む程度には邪悪で、頭が切れる。その辺りを熟知してないと、いい様にあしらわれて終わりさ。熟知していても大抵は無理だがね。相手は手練で、君の側は――とひとまず言っておくが――知能も状況も既に百歩は出遅れてる。先に悪印象を作られちゃ、言い分すらまともに聞いてもらえない。今さら何を悪あがきしているのか、そう思われるのが関の山さ。つまりはほぼゲームセットって事だよ。こいつをひっくり返すには、余程明らかな証拠がないとダメだぜ」


 探偵の予想した通り。

 石ころは、石ころのままに終わる。

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