第13話 犯人は……お前だ!!

 比治山公園と言うのは広島駅から南方面、小高い丘のような場所で、春には桜の名所として有名である。

 敷地は広く、小さな子供が喜ぶアスレチック施設が充実しており、休日になると家族連れて賑わう。


 私達は全員でそこに向かった。


「ここに、確かに息子のGPS反応が……」

 母親が震える声で言う。


 寒いのもあるのだろうが、恐らく緊張している。


 犯人からの要求は『500円』。


 人質の値段がワンコインですって?


 何かがおかしい。

 これは普通の誘拐事件じゃない……。


 そもそも誘拐事件と言うのは検挙率が高い。

 金銭の受渡しのため、直に犯人と接触するその時が逮捕のチャンスだから。


 割に合わない犯罪のせいか、最近はあまりその手の事件を聞かない。


「モミじー、寒い……」

 隆人は私にすっかり懐いてしまって、握った手を離そうとしない。

 悪い気はしないし、特殊捜査班の隊長から子供の面倒を見るよう言われて、断る訳にもいかない。


「我慢して」

 私は彼の小さな肩を抱き寄せ、いつどこから犯人があらわれるのかを、息を殺して見守っていた。



 どれぐらい時間が経過しただろう。


 がさっ、と茂みの向こうから音がした。野生生物だろうか。

 動物達は冬眠に入ったはずなんじゃ……?


 ドキドキしながら固唾を呑んで見守っていると、


「……ママ―!!」

 小さな男の子の声が聞こえた。

「拓斗?!」

 母親は叫び、声のした方に駆け寄る。


「ママ!! パパ!!」

 ガサガサと茂みをかき分けてあらわれたのは、隆人によく似た小さな男の子。


 両親は揃って彼に駆け寄り、無事を確かめた。

「拓斗!!」

 よかった、と母親はやっぱり母親なんだな……涙を流して喜んでいる。


 ところが。

「ねぇ、見てみて!! ほら!!」

 子供の方はまるで何ごともなかったかのように、両親の手を引っ張る。


 彼の指さす方向には……オリオン座。空気の澄んだ夜空に輝く星達は、いつになくくっきりと輪郭を見せてくれている。


「きれい……」

 思わず呟く。


 って、こんなことしてる場合じゃない!!


 まだその辺に犯人が潜んでいるかもしれない。


 すると。

 ガサガサ、茂みからまた別の人の気配が。


 私は思わず隆人を強く抱きしめた。


「……ちゃんと来たか……」

 目の前にあらわれたのは、白髪頭の小柄な老人だった。


 お祖父ちゃん、と耳元に子供の台詞。


 なぬ?


「お義父さん?!」

 驚いてそう声を挙げたのは、隆人の父親だ。


 なに? どーゆーこと?!


 私は驚き戸惑い、周囲の関係者を見つめた。


 和泉さんは?

 彼は困ったような顔で苦笑いしている。


 なんなの?

 いったい何がどうなってるの?!


「モミじー、あれうちのお祖父ちゃん」

「……どういうことなの?! あんたのお祖父ちゃんが、弟を誘拐した犯人だとでもいうの?!」

 呑気なことを言う子供の胸ぐらを思わず掴んでしまった。


「そうじゃ、ワシが犯人じゃ。ちゃんと500円持ってきたかの?」

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