第4話 好きな色は何ですか?
「ねぇ、それより結衣。和泉さんの好きな色って知ってる?」
「色……?」
「何よ、知らないの?」
ムリかしらね。この子、和泉さんに興味ないし。
「お願い、聞いてみて!!」
はいはい、と面倒くさそうに結衣はカバンから携帯電話を取り出しかけたけど、
「……ああ。そういえば確か……」
「何なに?!」
「欲求不満の色だから、紫がいいって言ってたような気がする……」
何だか今、前半少し妙な単語が聞こえたけど、気のせいかしら?
紫? また難しい色ねぇ……。
あ、でも。
ラベンダー色なら同系色だからありかも。
よし決めた!! ラベンダー系のワンピースにしよう!!
バッグと靴は……まだ一度も使っていないものがあるし。
あ、コートどうしよう!?
今からクリーニングに出して間に合うかなぁ。
あとは……あと……。
もし、もしもそんなことになったら、どうしよう?!
「……郁美……」
「……何よ?」
「顔が赤いし、表情が……すごく怪しい……」
気がつけば、まわりの視線を集めていたみたい。
いけない。
気を取り直して、楽しい予定のことを考えよう。
※※※
時間は午後7時。
場所は紙屋町の駅から歩いてすぐの場所にある、フレンチレストラン。お店の前で待ち合わせとなっている。
店のチョイスは和泉さんがしてくれたのかしら?
だとしたら、なんて素敵なセンスなんだろう。
かなり早めに到着し、店の場所を確認した私は思わず、うっとりしてしまった。
玄関先に小ぶりのクリスマスツリーが置いてあり、扉にはリースが飾られている。外から見ただけだけど、照明もほんのり明るいっていう感じでとってもロマンチック。
時計を確認すると、約束の時間まであと30分近くある。
そこで私は通り沿いにある、ショーウインドーを眺めて歩くことにした。
まさかこんな夜に限って、事件が起きたりしませんように。
その可能性が否定できないから、もうほんとに……ダメダメ、今はもうそんなこと考えないでおくの!!
気を取り直して歩いているとふと、ウエディングドレスを着ているマネキンを見つけた。
私もいつか、和泉さんと……!!
思わずガラスに両手をついて、食い入るように見てしまう私。
その時だった。
くいくい、とコートの裾を引っ張られた。
和泉さんかしら?
とびきりの笑顔を作って振り返る私。
ところが。
誰よ、この子。
知らない小さな男の子が、私のコートの裾を掴んで見上げてくる。
見たところ、5、6歳ぐらいっていうところ。私をママと間違えているのだとしたら、迷子かしら?
ちらりと時計を確認する。まだ余裕があるから、最寄りの交番に連れて行こう。
「どうしたの、僕? ママとはぐれちゃったの?」
私はしゃがみこんで男の子に話しかけた。
「……僕、お名前は?」
「ごめんなさいね、私はママじゃないの。すぐそこに交番があるから、一緒に行きましょう?」
「モミじー!!」
「……はい?」
いきなり男の子が私に抱きついてきた。
「モミじー、助けて!!」
なになに何?! 何が起きたの?!!
「弟がさらわれちゃったの!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます