第3話 なんだかんだと頼りにしている

 実は私にはずっと長い間、想いを寄せている相手がいる。


 捜査1課の刑事で和泉彰彦いずみあきひこさんっていう人。

 背が高くてイケメンで、それでいてすっごく優しいの。


 これ以上に好条件の人なんて他にいる? バツイチらしいけど、そこは何とも思わないわ。


 結衣は『やめた方がいいよ』なんて言うけれど。


 あ、結衣っていうのは私の友達で同期の女性刑事。捜査1課の、それも和泉さんと同じ班に所属しているなんていう、羨ましい立場よ。


 でも。

 私は刑事になりたいわけじゃないの。


 むしろ鑑識員のままでいい。

 鑑識と刑事は切っても切れない縁だもの。


 彼が持って帰った証拠物を私が鑑定して、無事に事件解決!! とでもなれば、もう2人が協力したおかげで真相究明に至ったっていう素敵な話じゃないの。


 内助の功ってやつ。

 公私に渡って私が彼を支えてあげるの……。


 なんだけど。


 お互いに仕事が忙しすぎて……ちょくちょく顔は合わせるけど、挨拶以上の踏み込んだ話なんてできない。ましてデートの約束なんて。


 そこで私、恥を忍んで直属の上司である相原係長にお願いしたのよ。

 和泉さんとのデート、なんとか約束を取りつけてもらえないでしょうか。


 それっていうのが、和泉さんの直属の上司で高岡警部って言う人は、ウチの係長と仲良しなの。

 和泉さんって、高岡警部の言うことには基本的に逆らわないって聞いたし。


 なんだかお見合いみたいな話だけど、こういうのって仲介役を立てた方が何かと都合がいいじゃない?


 そしたら。任せとけ、お前は俺の娘みたいなもんだからな、なんて調子のいいこと言ってくれたウチの上司。


 それなのになかなか実現しなくて、そろそろ催促……と、思っていたら。

 

 やるじゃないの、係長!!

 

 ああ、嬉しい……。

 どうしよう、何を着て行こうかしら?!


 ※※※


「なんでそんな、妙な顔してるの?」

 素敵な、嬉しい話を聞いたその翌日。

 すっかり気を良くした私は、友人である稲葉結衣いなばゆいを誘ってランチに出かけた。とても気分がいいから、ちょっと豪華なお店に連れて行くことにした。


 今日は私が奢ってあげるわ、と申し出たところ、不審者を見るような眼で見られた。


 そりゃね。普段の私は1円だって曖昧にしないワリカン会計がモットーだから。

 別にケチな訳じゃなくて、お金が絡むと人間関係って面倒になるからよ。


「……別に……」

 結衣はおしぼりでせわしなく手を拭きながら、なぜか視線を泳がせている。


「ねぇねぇ、ちょっと聞いてよ!! 実はね……」

「……え、和泉さんと……?」

「そうなの!! とうとうやってくれたのよ、ウチの係長!!」

「へぇ~……よかったじゃない」


 何よその反応。

 もうちょっと、自分のことみたいに喜んでくれたっていいじゃない。


「ねぇ、何を着て行ったらいいと思う? 買い物に行きたいのに、全然時間がないよ~」

「……」


「結衣ってば!! 聞いてる?」

「え? あ、うん……」


 何考えてるのかしら、この子。

 思えば昔から、ちょっとボンヤリした子だったわ。


 警察学校にいた頃は、この子に足を引っ張られて余計な罰則を科せられたことも何度となくあったのよね。


 ま、今となっては思い出だけど。

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