「あたえられた環境でいかにふるまうか」
- ★★★ Excellent!!!
著者の作品は全て読ませていただいていますが、全ての作品に共通するのは、登場人物が自分の人生を自分で選べないというところです。
『螺鈿の鳥』の仙月は宮女として生きていくしかなかった、『チンチロリンとガーシャガシャ』の夫婦は戦争に翻弄されるしかなかった、そして『翠浪の白馬、蒼穹の真珠』のレツィンは人質として烏翠に赴かざるを得なかった。
でも彼らは本当に運命の囚われ人だったのか?
本作品の弦朗君も、王族としての枷から逃れることは出来ません。サウレリも族長代理として最愛の妹を自らの手で人質に差し出さなければならない。そして2人に許された時間はたった一晩だけ、翌日にはそれぞれの人生に戻っていかなければならない。
でも2人は十四日の月の下、酒を酌み交わし、歌を詠み合うことができる。互いの立場を超えて相手を思い合い、労わりあうことが出来る。ただ、相手の幸せを願うことが出来る。そこには何物にも侵すことのできない精神の自由があります。ヴィクトール・フランクルは名著『夜と霧』の中で次のように語っています。「人は強制収容所に人間をぶちこんですべてを奪うことができるが、たったひとつ、あたえられた環境でいかにふるまうかという、人間としての最後の自由だけは奪えない」と。
人としての業を背負いながら互いを思いやり、懸命に生き続ける著者の作品の登場人物たちは、私のことをいつも勇気付けてくれます。
とても美しい作品なので、ぜひ読んでみて下さい。